Fusion 360 CAMは3Dデータを作成するCAD機能だけでなく、切削・旋盤加工のためのデータを作成できるCAM機能も標準搭載されています。
従来の3DCAMソフトは導入に300~400万円ほどかかりますが、Fusion 360は年間7万円程度で3DCAMが使用できます。
今回は3DCAMとして有名な「Mastercam」と徹底比較しながら、Fusion 360 CAMのCAM機能の実力を確認していきます。
Fusion 360概要
Fusion 360 CAMの機能(製造ワークスペース)は、2軸加工、3軸加工、穴加工、旋盤加工、4/5軸加工(※Machining Extensionが必要)、複合加工、ワイヤー加工に加えて積層造形にも対応可能です。
また、WindowsだけでなくMacでも利用可能なクラウド統合型の低価格3DCAD/CAMシステムです。
低価格でありながら、3DCADの機能から3DCAMの機能までひと通りを利用できますので、業務で利用する方はもちろんのこと、初心者や、個人利用者にも非常に扱いやすいものとなっています。
さらに、荒取り加工では加工材を基に切削領域を自動で認識するため無駄なツールパスを省き、加工時間の短縮を実現します。
また、工具やホルダの干渉チェックがCAM上で行えるためドライランの時間を短縮できます。
また、標準搭載されているポストプロセッサもあります。
Mastercam概要
Mastercamは、2軸加工、3軸加工、穴加工、旋盤加工、4/5軸加工、複合加工機・ワイヤー加工の様々な工作機械に対応し、豊富な機能と汎用性の高さから幅広い加工・業種で使用されている3次元CAD/CAMソフトです。
世界的にも利用数の多いCAMで幅広いモジュール構成で時間効率、作業効率、費用対効果を考えた構成になっていますので、様々な顧客ニーズに応えることができるシステムとなっています。
2軸から5軸に対応した各種モジュール、レリーフなどの加工に特化したモジュールなどに加えて3Dモデリング機能もあり、ワイヤーからのサーフェス生成機能なども充実しています。
また、Solidworksに特化したモジュールもあり、Solidworks上で複合加工プログラミングも行えます。
今回は無料体験版で検証します。
CAMの基本の流れ
CAMでのデータ作成から機械を動かすNCデータ(Gコード)の出力までの流れは以下の4ステップになります。
- 材料と加工原点の設定
- ツールパスの作成(穴加工/2軸加工/3軸加工)
- シミュレーションで安全確認
- NCデータの出力
1. 材料と加工原点の設定
Mastercam
材料設定は共通設定ですが、加工原点はツールパスごとに設定します。
Fusion 360
[設定]-[設定]コマンドに「加工原点(ワーク座標系)」の設定と「材料(ストック)」設定がまとまっています。材料設定はFusion 360もMastercamも同様の設定項目です。
2. ツールパスの作成
2-1「穴加工」
コマンドの対応は以下になります。
Mastercam | Fusion 360 |
---|---|
Drill | [ドリル]-[ドリル] |
Chamfer Drill | [ドリル]-[ドリル] |
Advanced Drill | [ドリル]-[ドリル]を複数回実行が必要 |
Circle Mill | [2D]-[円形] |
Helix Bore | [2D]-[ボア] |
Thread Mill | [2D]-[ねじ切り] |
FBM Drill | [ドリル]-[穴認識](Machining Extension) |
Auto Drill | [ドリル]-[穴認識](Machining Extension) |
Start Hole | [ドリル]-[ドリル]で手動作成 |
Fusion 360の通常のライセンスで使用できる穴加工コマンドは[ドリル]の1コマンドになります。([穴認識]コマンドはMachining Extensionが必要になります。)
Mastercamの穴加工コマンドのメインは[Drill]コマンドで、Fusion 360と同様になります。
他にも多くのコマンドがあるように見えますが、Fusion 360では2Dに含まれているものもあり、色付けした一般的によく使用されるコマンドはもちろん搭載されています。
設定の考え方も同様で、穴加工のタイプは「サイクル」という考え方で、切り替える仕組みになっています。そのため、1コマンドですが、様々な穴加工ができます。
Mastercamの[Advanced Drill]は1つの穴を複数の深さに分けて、加工方法を変更することが1コマンド内でできるようになっています。
Fusion 360では、該当するコマンドが無いため、高さ設定を変更した[ドリル]を複数回実行する必要があります。
Mastercamの[FBM Drill]/[Auto Drill]は穴の大きさや深さを解析して自動で複数工程の穴加工をしてくれます。
Fusion 360では、該当するコマンドが[穴認識]になりますが、Machining Extensionの追加購入が必要となります。
Fusion 360も通常の穴加工は問題無く行えます。
2-2「2軸加工」
Mastercam | Fusion 360 |
---|---|
Contour | 2D輪郭 |
Drill | [ドリル]-[ドリル] |
Dynamic Mill | 2D負荷制御 |
Face | 面 |
Dynamic Contour | 2D負荷制御+2D輪郭 |
2Dポケット | |
Peel Mill | 該当コマンド無し |
Area Mill | 2Dポケット |
Blend Mill | [3D]-[モーフィング] |
Slot Mill | スロット |
Model Chamfer | 2D面取り |
Engrave | 彫り込み |
該当コマンド無し | トレース |
FBM Mill | 該当コマンド無し |
Swept 2D | スイープサーフェスを作成し、[3D]-[フロー] |
Swept 3D | スイープサーフェスを作成し、[3D]-[フロー] |
Revolved | 回転サーフェスを作成し、[3D]-[フロー] |
Lofted | ロフトサーフェスを作成し、[3D]-[フロー] |
Ruled | ルールドサーフェスを作成し、[3D]-[フロー] |
色付けした一般的によく使用されるコマンドはもちろん搭載されています。
[FBM Mill]は形状解析して、複数の工程(面出し・荒取り・再粗取り・水平面仕上げ・垂直面仕上げ)を1コマンドで作成できる機能です。Fusion 360は該当するコマンドが無いため、ひとつずつ作成する必要があります。
Swept 2D/Swept 3D/Revolved/Lofted/Ruledは線を選択すると内部的にサーフェスを作成し、ツールパスを作成してくれます。
Fusion 360では、該当コマンドが無いため、事前にサーフェスを作成する必要があります。
Fusion 360も通常の2軸加工は問題無く行えます。
2-3「3軸加工」
Mastercam | Fusion 360 |
---|---|
OptiRough | 負荷制御 |
ポケット除去 | |
Project | 投影 |
Parallel | 走査線 |
Plunge | 該当コマンド無し |
Multisurface Pocket | ポケット除去 |
Area Rough | ポケット除去 |
Waterline | 等高線 |
Raster | 走査線 |
Equal Scallop | スキャロップ |
Hybrid | 急斜面と緩斜面 |
Pencil | ペンシル |
Blend | モーフィング |
Contour | [2D]-[2D輪郭] |
Horizontal | フラット/平坦部 |
Scallop | モーフィングスパイラル |
Project | 投影 |
Flowline | フロー |
Spiral | 渦巻き |
Radial | 放射状 |
Waterline | ランプ |
色付けした一般的によく使用されるコマンドはもちろん搭載されています。
[Plunge]は工具径を大きく超えるような深いポケットを突き加工で荒取りする手法です。Fusion 360では該当コマンドが無いため、プランジ加工が必須の方はFusion 360は避けてください。それ以外のコマンドは同様のものが搭載されています。
Fusion 360も通常の3軸加工は問題無く行えます。
一般的に使用されるコマンドはFusion 360にも搭載されている事がわかったので、実際に以下のモデルにツールパスを作成してみました。
加工するモデル
作成した工程
- 荒取り
- 再粗取り
- 平面仕上げ
- ペンシル
- 等高線仕上げ
- 走査線仕上げ
- スキャロップ
- 輪郭
- 芯出し
- ドリル
- 下穴ドリル
- タップ
Mastercam
Fusion 360
2つのソフトで問題無く同様のツールパスが作成できました。
3. シミュレーション(干渉チェック)
ツールパスの作成ができたので、シミュレーションで干渉チェックを行って、安全に加工できるか確認します。
Mastercam
Fusion 360
今回、それぞれの初期設定のホルダで行っているため、細かな干渉タイミングは異なりますが、MastercamもFusion 360も7工程目のスキャロップ加工で干渉を検出して、警告を出してくれました。
工具設定の修正
今回は、刃先の突き出し長さを調整して、干渉回避をしてみます。
Mastercam
ツールパスの設定の中に、干渉回避機能がありますが、「干渉箇所のトリム」か「回避のための軸回転」しか無いため、最短の突き出し長さにするためには、「Tool Projection」を何度も試行錯誤する必要がありました。
Fusion 360
ツールパスの設定の中に、干渉回避機能があり、「工具長を検出」をすると、最短の突き出し長さに自動調整してくれました。干渉回避機能に関してはFusion 360のほうが便利でした。
干渉しない事が確認できました。
4. 「NCデータ出力」
Mastercam
体験版ではNCデータ作成機能が制限されていましたが、機械に合わせたポストプロセッサを選択し、NCデータを作成します。
導入の際には自社の機械に合わせたポストプロセッサを作成してもらう必要があります。
Fusion 360
Fusion 360では以下のWebページに記載されている非常に多くのポストプロセッサが無料で提供されています。
https://cam.autodesk.com/hsmposts
そのため、適合するポストプロセッサがあれば、すぐに機械が動かせる環境になります。
また、適合するポストプロセッサが無料提供されていない場合にはポストプロセッサ作成サービスなどを利用して、ポストプロセッサを作成してもらう必要があります。
https://bizroad-svc.com/fusion360cam-post/
まとめ
今回、Fusion 360のCAM機能(製造ワークスペース)とMastercamを比較した結果、Fusion 360はMastercamと同等のツールパスが作成できる事がわかりました。
Mastercamの導入費用が300~400万円ほどかかる事を考えると、年間7万円程度で同等のツールパスが作成できるFusion 360は驚異的なコストパフォーマンスです。
また、Fusion 360は多くのポストプロセッサが無料提供されているのも魅力です。
もちろんMastercamでしかできないツールパスやMastercamの方が効率よく作成できるツールパスもありますが、Fusion 360で3DCAMを導入し、どうしてもFusion 360ではできない・効率が悪いとなった時にMastercamを検討するのが良いかと思います。
他にもFusion 360の特徴として、3DCADとの完全統合している点があります。
3D設計もFusion 360で行えば、設計変更後のツールパスの更新もワンクリックで可能になり、より効率よく設計・製造が行なえます。
両方とも無料体験版があるので、ぜひ試してみてください!
○Fusion 360 CAM機能の使い方
○Mastercamの使い方
