掘削工事や基礎工事において「土留めの変位計測は、何から手をつければいいのかわからない」と悩む方も多いでしょう。特に地下工事では、土留めの変位が近隣の建物やインフラに影響を与える可能性があるため、精度の高い計測と監視が必要です。
しかし、どの機器を使えばよいのか、どの程度の変位まで許容されるのかといった判断は、実務経験が浅い方にとって難しいものです。
そこで本記事では、「土留めの変位計測とは何か」という基本から、実際の計測手順や使用機器、許容基準の考え方などわかりやすく解説します。
土留めの変位計測とは
土留めの変位計測は、掘削工事などで設置した土留め壁や山留め壁の動きを測定・監視する作業です。例えば、GNSS受信機を使ったクラウド型システム「EagleEye」では、山留めや土留めの変位を長期的に監視できます。
実際の計測では、以下の内容を対象に測定します。
- 土留め壁に作用する土圧
- 支保構造の応力・変形
- 揚水や掘削による周辺地盤沈下
データから土留め全体の挙動を評価します。土留め変位を正確に把握することで、掘削工事の安全管理や周辺環境への影響を抑えることができます。
なぜ土留めに変位計測が必要なのか
土留め壁の変位計測は、安全性管理のために必須です。掘削工事では、地盤条件に応じて適切な強度の土留め壁を設置し、施工中は定期的にその変位を測定する必要があります。計測した変位量は、設計上の管理基準値と比較して評価します。
万が一、計測値が許容値を超過しそうになる場合は、追加補強や掘削方法の見直しが必要です。山留めの水平変位測定では「設計値から設定した管理基準値」と比較して安全性を判断することも。
土留めの変位監視は、掘削作業の安全確保と近隣構造物への影響を未然に防止する上で必須と言えるでしょう。
土留めと山留めの違い
土留めとは、土壌の崩壊を防ぐために設ける構造物を指します。一般に「山留め」という用語も同じ意味で使われることが多いですが、建設工事の技術基準上では山留めは土留めと水中締切りを含む総称とされています。
つまり、実務上は同じ意味でも、山留めのほうが幅広い工法を指し、土留めは陸上で地下工事時に土の崩壊防止と地下水の遮水を目的とした仮設構造物を表します。
山留めについては以下の記事で解説していますので、詳しく知りたい方はご覧ください。
土留めにおける変位計測の基本と許容値の考え方
土留め変位計測の基本では、得られた変位データを許容値と照らし合わせて安全性を判断します。一般的な許容変位量の目安は、掘削深さに対して設定。道路土工仮設構造物工指針などでは、土留めの頭部許容変位量を掘削深さの約3%程度と定めています。
例えば掘削深さが10mなら約30cmが目安で、これを超えないよう管理します。基準では「掘削により生じる土留め壁の変位量は許容値を超えてはならない」と明記されており、この範囲内に収まるよう計測結果を継続的に監視します。要するに、設計時に設定した目標変位をモニタリングし、安全側に逸脱しないかどうかを確認するのが基本方針です。
許容変位量はどのように決まる?
許容変位量は地盤条件や構造物の位置関係によって決定され、掘削深さや周辺環境が影響します。先述の通り、土留め壁頭部の許容変位量を掘削深さの約3%とするのが目安です。
また、山留めの場合は側方変位量に30cmの上限が設けられることも多く、いずれも深度に応じた変位が大きくならないよう管理します。周辺に建物などがある場合は、弾塑性解析などで想定される変位量を算出し、それに応じて許容値を設定する場合があります。
基準値は掘削深さや構造規模で大まかに決め、必要に応じて近隣影響を加えて最終的に決定します。
土留めの変位計測における手順
土留め変位計測は、以下のようなステップで実施します。
- 計測計画を立案する
- 基準点・計測装置の設置
- 定期的な計測の実施
- 計測データの記録・管理を行う
①計測計画を立案する
まずは計測項目と方法を計画書にまとめます。具体的には、土留め壁に作用する土圧や補強部材の応力・変形、揚水・掘削による地盤沈下など、把握すべき挙動を洗い出しましょう。
ただし、地盤条件や土留め工法によって異なるため、過去の事例や専門書を参照して表や図に計測ポイントを整理します。最終的に表や図面で計測位置・頻度・使用機器を明示し、工事工程や安全基準に合わせた計測計画を作成します。
②基準点・計測装置の設置
次に、現地で基準点と計測機器を設置します。外部の動きに影響されにくい安定した場所に基準点を設け、土留め壁や周辺構造物に計測機器を取り付けます。計測機ごとの設置方法は以下の表を参考にしてください。
計測機 | 設置方法 |
埋設型傾斜計 | あらかじめ土留め壁にガイド管を設置し、その中に多段式傾斜計を入れる |
光波測量機 | 壁面や地盤上に反射プリズムを固定しておき、定期的に照準を合わせて距離・角度を測定 |
ピアノ線変位計 | 壁体にワイヤーを張り、壁が動くとワイヤーが伸縮するように取り付ける |
要点は、どの機器でも確実に固定できるよう支保工が邪魔にならない位置を選び、施工や交通の妨げにならないよう設置することです。
③定期的な計測の実施
計測装置を設置したら、計画に従ってデータ収集を行います。手動の場合はトータルステーションやレベルなどで毎週または毎日測定し、傾斜角や変位量を計算します。
自動装置を使う場合は、30分間隔や60分間隔で連続的にデータを取得。定期的な観測により、時間経過に伴う変位傾向を捉えることが重要です。実際の現場では、「掘削工事では適切な土留め設置と合わせて定期的な変位計測が必要である」とされています。つまり、計画通りの頻度で測定し、変位の増加や急変がないかを監視することが必要なのです。
④計測データの記録・管理を行う
最後に、取得した計測データを記録し、関係者で共有・管理します。手動計測では観測データを帳票に記録し、グラフ化して傾向を確認します。最近のシステムでは自動的にデータを収集・送信するものも多いです。例えば「山留めウォッチャー」のような機器では、専用のWeb管理画面で計測データをリアルタイムに確認できます。
どのケースでもデータベースやクラウドで測定結果を集約し、許容値超過時には警報やメールで関係者に知らせる運用が一般的です。
計測結果をもとに取るべき対策
土留めの変位計測で得られたデータは、単に記録するだけでは意味がありません。変位量が許容値を下回っていれば問題はありませんが、基準に近づいていたり、想定外の傾向が出ている場合は、対応する必要があります。例えば、支保工の増設や掘削手順の見直し、揚水の停止などが挙げられます。
また、近隣構造物への影響が考えられる場合には、振動や騒音のモニタリングを追加で実施するなどの判断も求められます。あらかじめ「もし許容値を超えた場合の対応フロー」として計測計画段階で定めておくと、現場での混乱を防げるでしょう。
土留めの工法をより詳しく知りたい方は以下の記事もあわせて参考にしてください。
土留めの変位計測に使われる計測機器
土留め変位計測に使われる計測機器は主に以下3つです。
- ピアノ線変位計
- 光波測量機
- 傾斜計
①ピアノ線変位計
ピアノ線変位計は、一般的な変位計測器で、土留めの変動を機械的に検知します。土留め壁と地盤間に張力のあるピアノ線を張り、ワイヤーが動くと計測器が検出する仕組みです。ワイヤー式や板ばね式の変位計があり、壁体の微小変位を数mm単位で捕捉できます。
ピアノ線変位計は、設置・張替えする場合、手作業で行う必要がありますが、電源不要でシンプルな点が特徴です。
②光波測量機
光波測量機は、光学測定を使って土留め壁の変位を把握する機器です。壁面や地盤上に設置したプリズムをターゲットにし、距離・水平角・鉛直角を高精度に測定します。
数日~数週間毎に測量を行い、各測点の座標変位を解析して壁の動きを求めます。光波測量は精度が高く、特に近接構造物への影響検討や周辺監視に適しています。
③傾斜計
傾斜計は、土留め壁の傾きを直接測定する装置で、近年もっとも一般的な計測機器です。大きく分けて、埋設型と挿入型の2種類があります。
種類 | 概要 |
埋設型傾斜計 | 施工前にガイド管を壁体や地盤に沿って垂直に埋設し、その中にセンサーを設置することで、傾斜角を常時モニタリング |
挿入型傾斜計 | 施工後にガイド管を利用し、必要なタイミングでセンサーを差し込んで計測する方式。定点観測や定期計測に適しており、繰り返し使用が可能 |
ここで使用される傾斜センサーとは、いずれの方式でも共通して「多段式傾斜計」と呼ばれる構造を採用することが一般的です。これは、一定間隔で複数の傾斜センサーを配置し、深度ごとの傾きを連続的に測定する仕組みを指します。
つまり、「多段式傾斜計」は埋設型・挿入型という「設置方式」とは別の分類であり、測定機構として両方式に共通して使われるものです。
なお、近年ではガイド管を必要としない無線式の小型傾斜センサーも登場しており、磁石などで壁体に直接取り付けられる製品もあります。
土留めの変位計測は「山留めウォッチャー」がおすすめ
山留めウォッチャーは土留め壁向けの無線傾斜計で、「人手不要で自動計測」「傾き検知でアラート発信」といった機能が備わっています。1台で傾きセンサーと通信機能を内蔵されています。主な特徴は以下4つです。
- 設置は土留め壁の上部にマグネットで貼り付けるだけで完了
- 計測は30分または60分ごとに自動で実施
- 変位が設定した閾値を超えるとメールで通知
- 測定データはインターネット経由でクラウドに保存され、専用のWeb管理画面でいつでも確認可能
スマートフォンから状況を閲覧できるので、離れた場所でも現場の変位状況をリアルタイムで把握でき、作業員の負担軽減と安全性向上が期待できます。以下のリンクから詳細をチェックできるので、確認してみてください。
土留めの変位計測についてのまとめ
土留めの変位計測は掘削時の安全管理に必須です。本記事では土留めと山留めの違いや、計測の目的・手順・許容基準、主な計測機器・方法について解説しました。土留め変位計測では計画的な測定とデータ管理が重要になります。以下のポイントを覚えておきましょう。
- 掘削工事中の土留め壁の動きを把握し、崩落や近接建物への影響を防止
- 掘削深さの約3%が一般的な目安
- 計測項目の選定→基準点・機器設置→定期測定→データ管理の流れで計画的に実施
本記事で紹介した技術や方法を適切に組み合わせて活用すれば、土留め壁の安全管理が向上するでしょう。施工現場では状況に合った計測機器を選び、許容基準を守って地盤変形をモニタリングすることが重要です。
