物流業界が抱える深刻な人材不足問題。
特に、トラックドライバーの労働時間規制強化による輸送能力低下は、物流の2025年問題として注目されています。少子高齢化による人手不足も相まって、物流現場は多岐にわたる課題に直面しています。
今回は、物流業界が人材不足とされる原因や人材不足を解消する具体策を詳しく解説します。
物流業界が人材不足とされる原因
物流業界で人手不足が深刻化する背景には、いくつかの要因が考えられます。
以下で詳しく解説します。
少子高齢化が進んでいるため
少子高齢化とは、出生率の低下と平均寿命の延びにより、生産年齢人口が減少する社会現象を指します。生産年齢人口とは、一般的に15歳〜64歳までの働き盛りの人口を指し、社会全体の経済活動の担い手となる層です。
この生産年齢人口の減少は、物流業界においても例外なく労働力不足を引き起こしています。
少子高齢化が進むにつれて、物流業界で働く人々の数も減少し、人手不足が深刻化するのです。
少子高齢化は今後も進展していくと予測されており、物流業界における人手不足はますます深刻化する可能性があります。
アナログな業務が残っているため
物流業界の現場では、手書きの指示書やFAXなど、アナログなやり方が残っているケースが少なくありません。このような非効率な作業は、労働生産性を低下させ、デジタル化された作業に慣れ親しんだ若年層の離職を招く要因となっています。
倉庫内作業やドライバー業務は、身体的な負荷が大きい仕事です。
若年層がこれらの業務を敬遠し、離職してしまうと、ますます人手不足が深刻化し、物流業界全体の生産性が低下する懸念があるのです。
物流業界は労働時間が長いため
物流業界は、他の産業と比較して労働時間が長い傾向にあります。
特に、トラックドライバーの労働時間は顕著で、ワークライフバランスを重視する人にとっては、就職や継続的な就業を躊躇わせる要因となっています。
厚生労働省の調査結果によると、トラックドライバーの年間労働時間は、全産業の平均と比較して大幅に長いことが明らかになりました。具体的には、トラックドライバーの年間労働時間は大型で2,544時間、中小型で2,484時間に達しています。
一方、全産業の平均は、年間労働時間が2,112時間と、トラックドライバーに比べて大幅に短くなっています。
このデータから、トラックドライバーが長時間労働に悩まされている現状が浮き彫りになります。長時間の運転や不規則な勤務体制は、ドライバーの健康状態や生活の質に悪影響を及ぼし、離職率の上昇にもつながることが懸念されます。
参照:トラック運送業界の2024年問題について|全日本トラック協会
トラックドライバーの長時間労働問題については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
ぜひ参考にしてください。
力仕事が多いため
物流現場は、荷物の積み下ろしやピッキング、運搬など、力仕事がつきものです。
このような体力的な負担は、物流業務における大きな課題の一つであり、働き手の多様性を阻む要因ともなっています。
特にドライバー職は、体力的な強さが求められる傾向があり、女性や高齢者の参入が比較的少ないのが現状です。体力に自信がない人や力の弱い人にとっては、物流現場での仕事はハードルが高く感じられるかもしれません。
しかし、近年では、物流業界でも省力化や自動化が進み、体力的な負担を軽減する取り組みが活発化しています。例えば、電動のパレットトラックやフォークリフトの導入、自動倉庫システムの活用などが挙げられます。
宅配便の需要が高まっているため
近年、EC市場の拡大に伴い、宅配便の取扱件数は年々増加しています。
消費者の購買行動が店舗からオンラインへとシフトする中で、宅配便が私たちの生活に欠かせない存在となった一方で、この宅配便の需要の高まりは、裏側で物流業界に大きな負荷をかけています。
物流業界では、EC市場の拡大に対応するため、膨大な量の荷物を迅速かつ正確に配送する必要があります。この急激な業務量の増加は、人材不足という深刻な問題を引き起こしています。
ドライバーをはじめとした物流現場の労働者は、長時間労働や過酷な労働環境に晒されるケースも少なくありません。
このまま宅配便の需要が伸び続けることを考えると、物流業界の人手不足はますます深刻化する可能性が高いでしょう。この問題を解決するためには、物流業界全体の効率化や労働環境の改善など、多角的な取り組みが求められています。
物流人材不足の解決策9選
物流業界における人材不足を打破するためには、従来の枠にとらわれない以下のような取り組みが求められています。
- 物流システムによる管理に切り替える
- モーダルシフトを導入する
- 共同配送を導入する
- 倉庫内にロボットを導入する
- 荷主や消費者の理解を得る
- 労働環境を改善する
- 幅広い人材を登用する
- 物流工程をアウトソーシングする
- 人材育成を行う
それぞれの項目を以下で具体的に解説します。
物流システムによる管理に切り替える
従来、物流作業は人の手と目で多くの作業が行われており、担当者の負担が大きいという課題がありました。しかし、物流システムを導入することで、輸送や保管、梱包、情報管理など、物流に関わる一連の業務を統合的に管理し、最適化することが可能です。
物流システムは、配送状況や在庫状況、荷物の現在地などをリアルタイムで把握できるようになり、物流業務を迅速かつ正確に行うことができます。
作業の標準化にも繋がるため、人員配置の最適化がされ、担当者一人ひとりの負担を軽減することができます。結果的に、作業の正確性向上にもつながり、人為的なミスを減らすことができるのです。
ただし、物流システムの導入には、初期導入費用やシステム維持費など、一定のコストがかかることを理解しておく必要があるでしょう。
モーダルシフトを導入する
モーダルシフトとは、これまで自動車で行われてきた貨物輸送を鉄道や船舶などの輸送手段に切り替えることです。自動車と比較して、鉄道や船舶は一度に運べる荷物量が圧倒的に多く、少ない人員で大量の荷物を輸送することが可能です。
特に、近年深刻化しているドライバー不足の問題を解決する一つの手段として注目されています。少ない人数で多くの荷物を運べることは、人手不足に悩む物流業界にとって大きなメリットと言えるでしょう。
また、鉄道や船舶は自動車に比べて排出する二酸化炭素量が少なく、地球温暖化対策にも繋がります。
モーダルシフトの導入は二酸化炭素排出量の削減に繋がり、持続可能な社会の実現に貢献することや道路を走るトラックの数が減ることで、交通渋滞の緩和や道路の損傷の軽減など、道路環境の改善にも繋がることが期待できるでしょう。
共同配送を導入する
共同配送とは複数の運送業者が協力し、一つのトラックやコンテナを共同で利用して配送を行う仕組みです。例えば、同じ地域に配送先がある複数の荷物を一つのトラックにまとめて運ぶことで、トラックの積載率を向上させ、無駄な輸送を削減することができます。
これにより、少ないドライバーで多くの荷物を運べるようになり、人手不足が深刻化する物流業界において、その課題解決の一端を担うことが期待されています。
倉庫内にロボットを導入する
物流現場におけるピッキングや仕分け、搬送などの肉体労働は、物流ロボットの導入によって自動化することが可能です。無人搬送車のように、あらかじめ決められたルートを走行し、搬送をサポートするロボットや自律走行搬送ロボットのように、周囲の状況を感知しながら柔軟に動き、作業をこなすロボットなどが代表的です。
倉庫内にロボットを導入することで、人手に頼っていた単純作業を自動化し、作業員の負担を軽減することができます。ただし、物流システムの導入と同様に、初期投資や維持管理にかかる費用は無視できません。
無人搬送車については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
荷主や消費者の理解を得る
物流の遅延や配送コストの上昇は、消費者に不便をもたらし、企業の生産活動にも支障をきたします。この問題を解決するためには、物流業界だけでなく、荷主企業や消費者を含めた、社会全体の協力が重要です。
例えば、荷物の納期であるリードタイムを適切に設定したり、物流サービスの料金を合理的に改定したりするには、荷主や消費者の理解が不可欠です。
荷主企業に対しては、トラックの荷待ち時間の削減に向けた情報共有や輸送用パレットの導入、入荷作業の効率化を支援するシステムの導入などを提案することで、物流全体の効率化を図ることができるでしょう。
このような取り組みは、国土交通省が経済産業省や農林水産省と共に推進している「ホワイト物流」推進運動においても、荷主企業に対して呼びかけられています。
参照:「ホワイト物流」推進運動|国土交通省・経済産業省・農林水産省
労働環境を改善する
長時間労働や肉体的な負担が大きい作業は、従業員の疲労を蓄積させ、生産性の低下や離職率の上昇に繋がる可能性があります。
このような状況を改善するためには、物流業界全体の労働環境の改善が課題となっています。
物流DXの推進により従来のアナログな業務をデジタル化し、業務効率を大幅に向上させることで、従業員一人ひとりの負担を軽減することができます。
例えば、AIやIoTを活用することで、作業の自動化や最適化を実現し、人手不足を解消することができるでしょう。
しかし、物流DXを成功させるためには、システムを導入するだけでなく、従業員が抱える課題を深く理解し、その解決に繋がるシステムを構築することが重要です。
従業員の意見を積極的に聞き取り、彼らの働きやすい環境を創造する取り組みを行いましょう。
幅広い人材を登用する
物流業界において人材を確保するためには、より広い視野で採用対象を拡大することが重要です。「体力が必要だから、力のありそうな人を採用したい」というような固定観念にとらわれると、採用活動の幅が狭まり、結果的に人材不足を解消できない可能性があるでしょう。
例えば、システム化によって体力に頼らない業務を創出したり、分業化を進めて様々な人が活躍できる環境を整えたりすることで、従来の体力労働のイメージを払拭し、多様な人材の応募を促すことができます。
また、人材派遣や人材紹介サービスなどの外部の力を活用することで、効率的な採用活動が可能です。これらのサービスを利用することで、短期間で必要な人員を確保したり、特定のスキルを持った人材を見つけたりすることができるでしょう。
物流工程をアウトソーシングする
物流業界が抱える深刻な人手不足問題に対し、効果的な解決策の一つとして、物流工程そのものを外部の専門業者に委託するアウトソーシングが注目されています。
アウトソーシングには、以下の2つの方法があります。
カスタム物流サービス | 繁忙期や大量の荷物発生時など、一時的に人員が必要となる際にスポット的に利用する |
定額物流サービス | 継続的に物流業務を委託して利用する |
企業は自社の状況に合わせて、物流業務を専門業者に委託することで、人材確保に悩むことなく、高い技術力と豊富な知識を持つプロフェッショナルに業務を任せることができます。
例えば、「繁忙期に一時的に人員を確保したいが、常時雇用する余裕がない」「様々な工夫をしても業務効率が上がらない」といった課題を抱えている企業にとって、アウトソーシングは有効な解決策となるでしょう。
物流の人材育成を行う
物流業界の様々な課題を解決し、さらなる成長を目指すためには、既存の枠にとらわれない新しい物流の価値を創出できる「高度物流人材」の育成が不可欠です。
高度物流人材の育成は、物流企業だけでなく、荷主企業や消費者を含む社会全体の利益につながることが期待されています。
高度物流人材には、物流分野にとどまらない多岐にわたる能力が求められます。
国土交通省は、特に以下の能力を重視しています。
- デジタル化に対応してデータドリブンで思考する能力
- サプライチェーン全体を最適化する能力
- 社会変化に対応し、新技術導入や異分野連携を推進できる能力
これらの能力を備えた人材を育成することで、物流業界はより効率的で持続可能なシステムへと変革していくことができるでしょう。このような高度物流人材の育成を加速するためには、以下のような人材育成サービスの導入が効果的です。
参照:「物流起点の価値創造を実現する人材の育成に向けて」|国土交通省
DX・AI人材育成研修サービス
同じ開催元が行なっているDX・AI人材研修サービスは、各社のDXやAI知識を高めるために開催されている研修サービスです。
自社の学びたいDX・AI知識に合わせてカルキュラムを変更できたり、何十人向けにも対応しているので、法人ではとても使いやすいサービスとなっています。
CAD人材育成サービス
ProSkilllのCAD人材育成サービスは、御社の業務内容や育成したいCAD人材について詳しくお伺いし、最適な教育プログラムをご提案いたします。
短期・中長期のプランから、御社の状況に合わせてカリキュラムを構築します。
また、eラーニングを活用することで、時間や場所にとらわれず学習を進めることが可能です。
製造業を中心に10年以上のコンサルティング経験を持つコンサルタントが、製造業に関する様々な分野の教育コンテンツやコンサルティングサービスをご提供するため、効率的な学習が可能となり、短期間で効果的な人材育成を実現します。
物流業界の人材不足についてまとめ
今回は、物流業界が人材不足とされる原因や人材不足を解消する具体策を解説しました。
人手不足が深刻化する現代において、企業は人材の確保と育成を最重要課題の一つとして捉えなければなりません。
また、採用活動だけでなく、ITツールや人材育成、アウトソーシングを積極的に活用し、業務の効率化・省力化を進めることも人材不足問題の解決に繋がります。
生産性を向上させることで、少ない人数でも多くの仕事をこなせるようになり、結果的に人材不足による影響を軽減できるのです。
社員が働きがいを感じ、長く勤めたいと思えるような魅力的な職場づくりや業務フローの改善など、一つひとつの取り組みが、企業全体の活性化に繋がるでしょう。
