このコーナーでは、Fusion 360の活用事例を紹介していきます。第1回となる今回は、bloomakeLabを取り上げます。bloomakeLabは、事業開始からまだ半年しか経っていませんが、ネットで話題の「アームスカート」の開発設計や「攻殻機動隊 S.A.C. タチコマ 1/2サイズリアライズプロジェクト」の技術指導協力を行うなど、その高い技術力で注目されています。bloomakeLab代表の吉村浩一氏に自身の取り組みについてうかがいました。
ROBO-ONEの「神」と呼ばれた設計の達人
bloomakeLab(ブルーメイクラボ)の代表を務める吉村浩一氏は、二足歩行ロボット競技会「ROBO-ONE」の参加者の間で「神」と呼ばれるほど、尊敬されている人物です。吉村氏は、個人で二足歩行ロボットを作る人がほとんどいなかった2001年頃から、小型ロボット向け金属パーツの設計開発や製造を行い、近藤科学の二足歩行ロボットキット「KHRシリーズ」のフレームや機構の設計も担当してきました。当時、吉村氏は会社員として、シートメタル、俗にいう精密板金加工で小型ロボット用部品の設計開発や受託開発などを行っていましたが、既存の製法にとらわれずに自由にものづくりをしたいと考え、2016年1月にbloomakeLabを開業しました。開業後は、IoT関連スマートデバイスの筐体プロトタイプ製作や面白法人カヤックの天野氏がてがける、ミュージックビデオに登場する光るギター、絶対領域拡張計画「アームスカート」、その他基板設計やソフトウェア設計などを行ってきました。また、「攻殻機動隊 S.A.C. タチコマ 1/2サイズリアライズプロジェクト」の技術指導協力も行っています。
ものづくりをしている方にFusion 360をすすめている
吉村氏は、ロボット部品の開発を始めた2001年頃から、オートデスクのAutoCADやInventorを使い続けてきました。数年前に、Fusion 360の前身であるInventor Fusionを知り、試しに使ってみたところ違和感なく操作でき、なかなか面白いと思ったそうです。吉村氏は、現在も2014バージョンのInventorを使っていますが、最近は、Fusion 360だけで設計開発を済ませてしまうことが増えているそうです。
「Fusion 360は、個人クリエイターなら実質無料で使える高性能3D CADということで、個人でものづくりをしている方におすすめしています。Fusion 360なら、そういう個人の方から仕事の依頼があった場合でも、データの受け渡しなどのわずらわしさがありませんし、お客様からのデータを加工する場合も変更点などの提案を即座に反映してお客様に届けることができ、非常にスピーディに仕事が進みます。また、Fusion 360を使ってベースとなる部品をモデリングしたものをこちら側で公開しておけば、そういった一般の方々でも、形状の追加や変更が可能で、そのまま加工に入ることもできます。このように、お互いにFusion 360を使うことで利益が生まれます。ですから、私はこれから3D CADを使おうとしている方々には積極的にFusion 360をおすすめしています。」
レンダリング機能やCAM機能の素晴らしさに感動
4年前に発売されたMacBook Pro(2012)でもFusion 360は快適に動作する
吉村氏に、Fusion 360で気に入っている点についてお聞きしたところ、次のような返答をいただきました。
「スカルプモードは、手で粘土をこねるような感覚で扱えたり、スクリプトでギヤを自動生成できたり、便利な小技が多い点も気に入っています。また、レンダリング機能も十分実用に耐えますので、多用しています。一番すごいなと思ったのがCAM機能です。ホビー用工作機器に付属しているCAMよりも数段高性能で、加工時間も短縮できます。この価格帯でこの機能というのは、数年前を考えると夢のようです。」
bloomakeLabのWebサイトに写真が出ている猫型小型ロボット「YONDA君」や近藤科学のロボット用コントローラー「KRC-5FH」用の拡張アナログコントローラーは、すべてFusion 360で設計されたものです。
「実際に業務に耐えうるかを検証するという意味も込めて、このYONDA君の設計をすべてFusion 360で行ってみました。私が使っているMacBook Pro(2012)の能力でも、Fusion 360はとても快適に動作します。このYONDA君のアセンブリ規模でも全く問題はありませんでした。3D CADでは、よく作業中に急にソフトが落ちることがあるのですが、私の環境でのFusion 360は安定しており、とても優秀だと思っています。」
吉村氏がFusion 360を使って設計開発した猫型小型ロボット「YONDA君」。フレームや外装は、吉村氏所有の3Dプリンターを使って出力されたものだ
吉村氏が開発した猫型小型ロボット「YONDA君」の3D CAD画面。部品点数は比較的多いが、全く問題なく設計できたとのこと
シートメタル機能の実装に期待
吉村氏が設計したアームスカートの3D CAD画面
最後に、Fusion 360に対する要望をお聞きしました。
「一番欲しい機能はシートメタル機能ですね。アームスカートは、アルミ板を曲げて作る工法で設計しています。現時点のFusion 360にはシートメタル機能はありませんので、シートメタルで製作した状態を押し出しでモデリングしています。Inventorですと、シートメタル機能がありますので、実際の加工工程と同じようにディスプレイ上で板を曲げながら設計ができますし、自動展開機能がありますので、設計作業時間が短縮できます。Fusion 360にもシートメタル機能が年内には実装されるという噂も聞いてますので、毎回アップデートの度に期待しています。」
