「製品開発のスピードが遅い」「設計と製造の連携がうまく取れず、手戻りやムダが多い」と悩んでいる企業も多いのではないでしょうか。製造業において、設計から製造、品質管理に至るまでのプロセス全体を効率化するためには、CADツールではなく、統合的な製品ライフサイクル管理が必要に。そこで注目されているのが、Siemens社が提供するPLMを搭載する「NX」です。
本記事では、
- PLMを搭載する「NX X」とは
- 導入企業が実際にどのような効果を得ているのか
- 導入前に押さえておくべきポイント
まで詳しく解説します。製品の品質向上や開発効率化を目指す企業はぜひ最後までご覧ください。
Siemens社のPLMを搭載する「NX X」とは
NXとは、Siemens社が開発・提供する3DCAD/CAM/CAE統合ソフトウェアです。製品開発のあらゆる工程を1つのプラットフォーム上で実行できる点が特徴であり、製造業や機械設計業界を中心に広く人気があります。
NXは、機械部品やアセンブリなどの3Dモデリングにだけでなく、構造・熱・振動解析や、金型・治具設計およびNC加工プログラム作成までを一貫して行えるのが魅力。板金設計、配線・配管設計、複雑な自由曲面のモデリングにも対応しており、あらゆる業界・製品に柔軟に適応できます。
また、NXには「ソリッド」「サーフェス」「ワイヤーフレーム」など複数のモデリング手法が統合されており、用途に応じた最適な設計が可能です。そのため、過去資産や外注先のデータを活用しながら効率的に設計を進められるのです。
NXのライセンス価格
NXには、クラウドベースで利用できるサブスクリプション型のライセンス「NX X」が提供されています。NXの価格は公表されておらず、NX XはメーカーWebサイトでの購入価格を掲載しておりましたので参考に紹介いたします。尚、以下のNX Xの全てのパッケージにはTeamcenter Essentialsが搭載されています。
ライセンス種類 | 価格 | ライセンス内容 |
NX X Design Standard | 1,079,901円/年 | 基本的な3D部品・アセンブリ設計、2D製図、板金設計、基本的なデータ管理機能を搭載したエントリーモデル |
NX X Design Advanced | 1,402,948円/年 | Standardの全機能に加え、設計効率・品質を高める拡張機能を搭載 |
NX X Design Premium | 1,790,605円/年 | Advancedの全機能に加え、AI予測や高度な解析機能、自由形状モデリング、高度な表面分析など、最先端の設計・検証機能を搭載 |
また、NXでは「NX Value Based Licensing」というトークン方式のライセンスも用意されています。基本ライセンスに必要なアドオン機能を追加で選択できる仕組みで、トークン数に応じて複数の機能を柔軟に利用できます。業務内容に合わせて拡張できるため、大企業から中堅・中小企業まで、幅広いニーズに対応しています。
以下のリンクから「NX X」の無料体験版をダウンロードできるため、チェックしてみてください。
そもそもPLMソフトとは
PLMとは、製品の構想段階から設計・製造・販売、保守に至るまでのすべてのプロセスに関わる情報や業務フローを一元管理するソフトウェアのことです。
製造業では、製品開発の過程で膨大なデータが発生します。例えば、3D設計データ、部品表(BOM)、材料情報、製造指示、設計変更履歴、品質試験結果などが部門ごとに分散しがちです。PLMソフトウェアを導入することで、こうした情報を一元化・可視化・追跡可能にし、部門横断の連携と情報共有を促進します。
具体的な機能には以下のようなものがあります。
- 設計部品表(EBOM)の自動生成と管理
- 設計変更のワークフロー管理(承認・履歴追跡)
- 図面やデータのバージョン管理
- 品質情報・試験記録の統合
- サプライヤとの図面共有・設計レビュー支援
上記の機能により、設計ミスの早期発見、変更漏れの防止、再利用設計の促進などが可能となり、開発期間の短縮と品質向上が実現します。また、Siemens NX Xは、PLMの機能と連携しており、Siemens製のPLM基盤「Teamcenter」との連携により、設計・製造・品質・サービスまでをシームレスに統合できます。
Siemens社のPLMを搭載する「NX X」がもたらす効果
PLMを搭載するNX Xを導入することで、製品開発プロセスにおけるさまざまな効果が期待できます。主に得られる効果は以下の4つです。
- 製品開発期間の短縮
- 設計・製造プロセスの統合と効率化
- データ再利用と設計変更
- 製品品質の向上
効果①製品開発期間の短縮
先述した通り、NXはモデリング、解析、図面作成などの一連のプロセスが1つのプラットフォーム内で完結できるため、製品開発期間の短縮が期待できます。試行錯誤を短時間で繰り返せるため、最適解にたどり着くまでの工程が効率化されるのです。
具体的な事例では、新製品の設計や解析にかかる反復作業の時間を70%以上削減できたケースもあり、その結果として全体の開発期間を30%以上短縮することに成功。企画から量産設計までの時間が短縮され、市場への投入時期を早めることができるため、競争が激しい市場において優位に立つことが可能になります。
効果②設計・製造プロセスの統合と効率化
CAD/CAM/CAEのデータ連携がシームレスに行えることが強みであり、工程間の情報の受け渡しを効率化できるのもNXの魅力です。
例えば、NXで作成した3Dモデルは、追加の変換作業を必要とせず、そのままCAMモジュールへ引き継ぐことができます。つまり、データ変換ミスや再作業の手間を回避でき、作業の正確性とスピードが向上するということです。
また、NCプログラムの作成や工具パスの設定にかかる時間も短縮され、加工現場の立ち上げが迅速に行えます。NXはデジタルツインによる加工プロセスの事前検証も可能なため、設備トラブルやムダな材料消費のリスクも低減できます。
効果③データ再利用と設計変更
NXには、設計者の業務を支援するためのツールやライブラリが揃っています。例えば、社内標準パーツや過去に作成した3Dモデルをライブラリ化しておくことで、新たな設計をする際に簡単に呼び出して再利用できます。
また、形状検索ツールやジオリバース機能を活用すれば、既存部品の類似モデルを自動的に見つけ出し、再設計の手間を最小限に抑えることが可能。設計フローの標準化が進み、設計効率の向上や納期短縮にもつながります。
効果④製品品質の向上
NXは、構造解析、熱解析、振動解析などのシミュレーションが設計段階から行えるため、物理試験を行う前にデジタル空間で製品の性能や安全性を検証できます。解析結果に基づいて設計案を修正できるため、設計と検証のサイクルを高速に回すことが可能に。複数の設計パターンを比較しながら最適な形状や材質を選定できるため、製品仕様に対して効果的な解決策を導き出せるのです。
また、NXには最適化エンジンが組み込まれており、設計パラメータを自動で調整しながら、性能やコストのバランスを考慮した設計も可能です。結果、設計ミスや不具合のリスクが低減し、試作回数の削減やリコールリスクの軽減につながるでしょう。
Siemens社の「NX」の企業導入事例
NXの魅力は理解できたものの「実際にどのような結果が出せるの?」と疑問を持つ方もいるでしょう。そこで実際の企業事例を3つ紹介します。
- 曙工業株式会社|作業時間を最大80%削減
- アイシン精機株式会社|開発期間短縮と品質向上を実現
- オークマ株式会社|設計から製造までのプロセスを構築
事例①曙工業株式会社|作業時間を最大80%削減
自動車部品の製造を主力事業とする曙工業株式会社では、製造現場の効率化と精度向上を目的に、Siemens NXのCAD/CAM機能をフル導入しました。従来はアナログ作業や複数のソフトウェアで分断されていた治具設計・加工・検査の一連プロセスをすべてデジタル上で完結できるように。
特に効果が大きかったのは、外部パートナーや顧客から提供される設計データの解析・修正作業です。NXの高度なモデリング機能とシンクロナス・テクノロジーを活用することで、処理時間を最大70%削減することに成功。また、製造全体の工数も最大80%の短縮を実現し、新規設備や高精度機械の早期稼働とスムーズな立ち上げも貢献しました。
事例②アイシン精機株式会社|開発期間短縮と品質向上を実現
自動車用部品を手がけるアイシン精機株式会社では、製品の複雑化と開発スピードの両立を目的にNXを導入。複雑な部品設計や大規模アセンブリの構築において、高度な設計・解析機能が大きな効果をもたらしています。
NXの採用により、設計データの一元管理が可能となり、設計からシミュレーションまでを同一環境で完結。、設計→試作→検証のサイクルを短縮しながら、試作段階での手戻りリスクを削減しました。さらに、設計案ごとの性能比較や最適化シミュレーションを実施することで、初期段階から製品品質の高水準化を実現しています。
事例③オークマ株式会社|設計から製造までのプロセスを構築
CNC旋盤やマシニングセンタで知られるオークマ株式会社では、自社の製品開発力をさらに高めるためにNXを導入。CADとCAMの統合によるエンジニアリングチェーンの最適化に注力しています。
従来、設計データをもとに加工用プログラムを作成する際には、手作業による変換や設定のやり直しが多く発生していました。しかし、NXの導入により、設計データをそのまま加工プログラムへ反映できる仕組みを確立。設計者の意図が正確に製造現場へ伝達されるようになり、エラーや再作業の削減にもつながっています。
さらに、デジタルツイン技術を活用した加工シミュレーションも導入。試作前に工程上の課題を仮想空間で検証できるため、製造リードタイムの短縮と製品精度の安定化を同時に実現しています。
Siemens社のPLMを搭載する「NX」の導入成功ポイント
最後にNXの導入を成功させる際に必要なポイントを3つ紹介します。
- 導入目的と活用範囲を明確にする
- 無料体験版を使用する
- 既存システムとの連携性を確認する
ポイント①導入目的と活用範囲を明確にする
NXは多機能な統合型ソフトウェアであり、3Dモデリングや解析、加工プログラム作成まで幅広い業務に対応しています。しかし、その分、事前に「自社はNXを使って何を達成したいのか」という目的を明確にしておかなければ、機能が活かされないまま終わってしまうリスクもあります。
たとえば、導入の主な目的が「設計効率の向上」なのか、「製造プロセスとの連携強化」なのかで、必要なモジュールや運用体制は大きく変わってきます。まずは、自社の現場が抱える課題を洗い出し、改善したいポイントを具体化しましょう。
ポイント②無料体験版を使用する
クラウド版「NX X」は30日間無料で使用することができるため、導入前に製品の操作性や機能性を試すことができます。そのため、必ず使用感や操作性を確かめて、契約しましょう。
自社で使っている設計データを実際にNXに読み込ませて操作することで、互換性や編集性などを確かめることができます。また、初めて利用する設計者やエンジニアの「操作しやすさ」「インターフェースの慣れやすさ」なども、確認は必須。
体験版を使って分かった課題は、導入時のマニュアル作成にも活用可能です。たとえば「加工機能は要らないが解析は必要」といったことが明確になれば、ムダなコストをかけずに必要な機能だけを導入できます。
ポイント③既存システムとの連携性を確認する
NXは、SiemensのTeamcenterや各種CAEツールとの連携機能を備えており、他社CADデータとの高い互換性もあります。しかし、導入現場で見落とされがちなのが、自社内で稼働している既存システムとの整合性の確認です。
特に確認するべきシステムは以下のとおりです。
- ERP
- 旧CADソフト
- 文書管理システム
- 製造指図ツール
上記のNXと連携・データ受け渡しを行う可能性のあるシステムが社内にある場合は、接続可否やデータ変換仕様を事前に精査しておく必要があります。
導入前にシステム間連携に関するリスクを洗い出し、スムーズな移行・運用ができるようにしておきましょう。
Siemens社のPLMを搭載する「NX X」についてのまとめ
Siemens社のPLMを搭載する「NX X」は、単なる設計ツールにとどまらず、設計・解析・加工をシームレスに統合できるソフトです。CAD/CAM/CAEをひとつに集約することで、製品開発期間の短縮、設計と製造の情報連携、品質向上、データ再利用による工数削減など、様々な効果が期待できます。
実際にNX Xを導入した企業では、設計・加工プロセス全体の工数を最大80%削減し、新製品投入までのスピードアップに成功した事例もあります。今後の製品開発競争を勝ち抜くためには、PLM視点での開発体制強化は必須と言えるでしょう。
