「社員のスキルアップを図りたいけれど、研修費用が高額で踏み切れない」「新しい技術や知識を習得させたいが、教育コストや研修中の人件費が負担になる」と悩む企業担当者は少なくありません。
特に製造業や建設業の現場では、CADソフトの習得や機械操作、DXやITスキルの習得など、現場の競争力を高めるために必要な研修は幅広く、費用も時間もかかります。企業の負担を軽減し、計画的に人材育成へ取り組めるよう支援するのが「人材開発支援助成金」です。
本記事では、制度の仕組みやキャリアアップ助成金との違い、具体的なコース内容、申請に必要な書類や手続きの流れ、活用できる対象講座まで詳しく紹介します。
人材開発支援助成金とは?

人材開発支援助成金は、企業が従業員に対して職務に関連する専門知識や技能を身につけさせるための職業訓練などを計画的に実施した場合に、かかった経費や訓練中に支払った賃金の一部が助成される制度です。
従業員の教育訓練にはコストがかかりますが、助成金を活用すれば企業側の負担を軽減しつつ、人材育成に取り組むことができます。
特に製造業や建設業などでは、CADソフトの習得や新しい機械操作、DX・ITスキルの習得などに多額の研修費がかかるケースも多いため、利用するべき制度と言えるでしょう。
キャリアアップ助成金との違い
人材開発支援金とキャリアアップ助成金は混同されることがありますが、対象者や目的が異なる全く別の制度です。以下は違いをまとめた表になります。
| 比較観点 | 人材開発支援助成金 | キャリアアップ助成金 |
|---|---|---|
| 制度の目的 | 事業主が従業員に職務関連の訓練を計画的に行った際、訓練経費・訓練中賃金の一部を助成し、人材育成を促進する | 非正規雇用労働者の正社員化・処遇改善を行った事業主を助成 |
| 主な対象者 | 雇用保険の被保険者 | 有期・短時間・派遣などの非正規雇用労働者 |
| 代表的な取組例 | CAD/安全衛生/DX研修、OJT+OFF-JTの認定訓練、教育訓練休暇制度の導入 等 | 有期→正規への転換、賃金規定等の改定、健康診断制度の整備、労働時間延長と社保適用 等 |
| 助成の性質 | 教育訓練そのものを補助 | 雇用区分や処遇の見直しに伴う措置を補助 |
一言でまとめると、「人材開発支援助成金は企業内研修への助成、キャリアアップ助成金は非正規社員の正社員化等への助成」という違いがあります。
なお、人材開発支援助成金とキャリアアップ助成金は要件を満たせば併用も可能です。キャリアアップ助成金について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
人材開発支援助成金のコース

人材開発支援助成金には、企業が実施する人材育成の内容に応じて複数のコースが設定されています。
| コース名 | 概要 |
|---|---|
| 人材育成支援コース | 正社員・有期契約社員向けに、OJTやOff-JTを組み合わせた職業訓練を行った場合に助成 |
| 教育訓練休暇等付与コース | 有給の教育訓練休暇制度を導入し、従業員が実際に休暇を取得して訓練を受けた場合に助成 |
| 人への投資促進コース | デジタル人材など高度人材育成や、自発的な訓練、サブスク型研修の利用を支援 |
| 事業展開等リスキリング支援コース | 新規事業や業態転換に必要な知識・技能を習得させる訓練を実施した場合に助成 |
| 建設労働者認定訓練コース | 中小建設事業主が行う建設分野の認定訓練・指導員訓練に対して、経費や賃金の一部を助成 |
| 建設労働者技能実習コース | 建設労働者に対し、技能実習(OJT)を有給で受講させた場合に、経費や賃金の一部を助成 |
| 障害者職業能力開発コース | 障害者向けに継続的な職業訓練施設を設置・運営する場合に助成 |
①人材育成支援コース
人材育成支援コースは、企業が従業員に職務関連の知識や技能を習得させる訓練を実施した際に助成される制度で、正社員だけでなく契約社員やパートも対象です。OJTとOff-JTを組み合わせた厚労省認定訓練や、非正規雇用から正社員化を目指す研修も支援対象に含まれます。
例えば、新入社員の安全教育、中堅社員のCAD操作研修、ベテラン社員の指導力向上研修など幅広い研修が対象で、中小企業は助成率や賃金補助が優遇されますが、事前の計画届提出や評価方法の準備など一定の条件を満たす必要があります。
②教育訓練休暇等付与コース
教育訓練休暇等付与コースは、企業が有給の教育訓練休暇制度を新たに導入し、従業員がその休暇を使って研修や通信講座を受けた場合に助成される仕組みです。単に研修を行うのではなく、就業規則に有給研修休暇を明記し、労使協定を結んだ上で従業員が実際に取得・利用する必要があります。
申請には導入計画届の作成や提出が必要で、中小企業にとってハードルはあるものの、社員の自主的な学習を後押しする体制を整えられる点でメリットが大きいコースです。
③人への投資促進コース
人への投資促進コースは、DXや高度専門人材の育成を目的とし、デジタル人材研修や外部講座の受講、サブスクリプション型研修サービスの導入など幅広い取組を助成する制度です。
社員がAIやデータ分析を学ぶ通信講座を受講したり、企業がeラーニングサービスを導入して継続学習を推進した場合が該当します。海外大学院での研修も対象となり、中小企業は経費の7割が助成されるなど補助率が高いのも特徴です。
④事業展開等リスキリング支援コース
事業展開等リスキリング支援コースは、新規事業や業態転換に伴って必要となる新しいスキルを社員に習得させる訓練を支援する制度です。製造業が医療機器分野に参入するために社員へ医療関連の知識を習得させたり、建設業がドローン測量を導入するために社員へ操縦や解析を教える場合などが対象です。
中小企業では経費の6割、大企業では45%が助成され、賃金助成も定額で支給されるため、事業戦略と人材育成を結び付けたい企業に適しているでしょう。
⑤建設労働者認定訓練コース
建設労働者認定訓練コースは、建設業の事業主が従業員に対して認定職業訓練や技能実習指導員の育成訓練を行った場合に助成される制度です。例えば、建築施工管理技士の資格取得講座や建設機械の操作訓練など、厚労省基準を満たす研修が対象となります。
助成内容は訓練経費や有給で受講させた場合の賃金の一部で、若手育成や技能継承に役立つ制度です。
⑥建設労働者技能実習コース
建設労働者技能実習コースは、建設労働者のOJTによる技能実習を対象にした助成制度です。新人に対してベテランがマンツーマンで実習を行い、その期間中を有給扱いにした場合などが該当し、実習経費や賃金の一部が補助されます。
単なる日常業務ではなく計画的な技能習得プログラムとして実施する必要があり、計画書やOJT記録の提出が求められます。職人の技能伝承やリーダー育成に役立ち、中小企業への支援が手厚いコースです。
⑦障害者職業能力開発コース
障害者職業能力開発コースは、障害のある方の職業能力を高めるために、教育訓練施設を設置・運営し継続的に研修を行う場合に費用の一部が助成される制度です。
例えば、企業が障害者向けの研修センターを設けて職業訓練を提供する場合が対象となります。
人材開発支援助成金に必要な種類一覧

人材開発支援助成金を申請するには、事前の計画届から支給申請まで複数の書類を準備・提出する必要があります。以下に主な必要書類を一覧表にまとめ、概要を解説します。
| 書類名 | 概要 |
|---|---|
| 職業訓練実施計画届 | 助成金を使う訓練の事前計画書。訓練開始1か月前までに提出。 |
| 制度導入・適用計画届 | 教育訓練休暇制度など、新制度を導入する際に提出。 |
| 訓練実施結果報告書 | 訓練終了後、受講者や日程、修了者数をまとめた報告書。OJTやOff-JTの証明書添付が必要。 |
| 支給申請書 | 助成金の本申請書。訓練終了日の翌日から2か月以内に提出。 |
| 支給要件確認申立書 | 賃金支払い状況や他助成金との重複がないことを誓約する書類。 |
| 支払方法・受取人住所届 | 助成金の振込口座・事業主情報を届け出る書類。 |
| 賃金助成・OJT助成内訳 | 訓練中の賃金やOJT指導員への助成額をまとめた内訳。 |
| 経費助成内訳 | 講座費用・教材費など訓練経費の明細書。 |
| 支給申請承諾書 | 外部機関での研修において、助成金対象とするための同意書。 |
書類は大きく分けて「計画届出段階で提出するもの」「支給申請段階で提出するもの」「添付書類(証拠書類)」の3種類があります。
人材開発支援助成金の申請5ステップ
人材開発支援助成金を受給するためには、事前準備から申請までの手続きを正しく踏むことが大切です。ここでは、申請までの一般的な流れを5つのステップに分けて解説します。
- 職業能力開発推進者の選任と計画作成
- 研修計画の届出と事前準備
- 研修の実施と進捗管理
- 研修結果の評価と支給申請書類の準備
- 労働局への支給申請と審査・受給
①職業能力開発推進者の選任と計画作成
最初は、社内で人材育成を統括する「職業能力開発推進者」の選任です。各事業所に1名以上選任が義務付けられており、従業員100名以上の事業所では専任担当を置くことが望ましいとされています。
一般的には人事担当者や教育訓練を理解している管理職が任命。そのうえで、企業としての人材育成方針や中長期的な目標をまとめた「事業内職業能力開発計画」を策定します。例えば「3年以内にDX人材を育成する」「資格取得者を増やす」など具体的な数値や方針を盛り込むのが理想です。
②研修計画の届出と事前準備
次に、実際に行う研修の計画を細かく立て、所定の「職業訓練実施計画届」を労働局に提出します。訓練開始日の1か月前までに提出が必要で、以下の内容を記載します。
- 研修の目的
- 期間
- 対象者
- 実施方法
- 実施場所
- 講師名など
社外研修であれば講座名や機関名、社内OJTなら指導者とカリキュラムを明示する必要があります。計画内容に変更が生じた場合は必ず「変更届」を提出しなければ助成対象外になるため、事前準備段階で確認と手続きは必須です。
③研修の実施と進捗管理
計画届が受理されたら、計画に沿って研修を開始します。研修は原則として届出内容通りに実施する必要があり、日程やカリキュラムを変更する場合は事前に手続きを行いましょう。
研修中は出勤簿や研修日誌などで進捗を記録し、特にOJTでは「OJT日誌」に指導内容や習得状況を記録することが求められます。また、計画で「有給扱い」としていた場合には必ずその通りに賃金を支払い、賃金台帳や給与明細で後に確認されるため注意が必要です。
④研修結果の評価と支給申請書類の準備
研修が終了したら、その成果を評価するとともに助成金申請のための書類を用意します。「支給申請書」「支給要件確認申立書」などの本申請書類に加え、賃金台帳・出勤簿・領収書・研修修了証明書などの添付資料も揃えます。

書類の数が多く不備が起きやすいため、厚労省が提供している上記のチェックリストを利用して確認すると安心です。
⑤労働局への支給申請と審査・受給
準備が整ったら、労働局へ支給申請を行います。窓口への持参や郵送のほか、現在は「雇用関係助成金ポータルサイト」からの電子申請も可能で、オンラインなら24時間申請可能です。提出後は労働局が審査を行い、計画どおりの訓練実施や賃金支払い状況などが確認されます。
問題がなければ「支給決定通知書」が送付され、後日指定口座に入金されます。審査には数か月かかることもあるため、資金繰りは余裕を持って立てておくことが重要です。
その他の助成金について知りたい方は以下の記事から詳しい内容をチェックできますので、ご覧ください。
人材開発支援助成金の対象講座・セミナー
人材開発支援助成金の対象となる研修はさまざまです。基本的には職務に関連する知識・技能を向上させる目的の研修であれば、公的・民間を問わず助成対象となり得ます。
例えば、製造業であればCAD設計ソフトの習得セミナーや生産管理に関する講習会などが典型です。そこでおすすめなのが「DX・AI人材育成研修サービス」です。
「DX・AI人材育成研修サービス」は、現場での活用を前提にAIやIoT、データ分析のスキルを習得させる内容で、企業ごとにカリキュラムをカスタマイズ可能な点が特徴です。企業ごとにDX・AIの課題をヒアリングし、導入から定着まで一貫してサポートします。
もちろん、人材開発支援助成金の利用も可能ですので、以下のリンクからぜひ詳細をチェックしてみてください。
人材開発支援助成金についてのまとめ
人材開発支援助成金は、企業の負担を軽減し積極的な人材育成を後押しする制度として、製造業・建設業をはじめ多くの業界で活用が進んでいます。複数のコースが用意されており、自社の状況に応じて最適なコースを選ぶことで、研修経費・賃金の一部補助を受けることが可能です。
特に中小企業にとっては高い助成率が適用されるケースも多く、社員一人ひとりの成長が会社の成長につながる好循環を生み出すでしょう。ぜひ本記事を参考に人材開発支援助成金を申請してみてください。