「無響室を実際に体験してみたいけれど、どこで体験できるのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。無響室は、外部の音だけでなく室内の反響音さえも吸収してしまう空間で、普段の生活では味わえない静寂を体感できます。
しかし、独特の無音状態は想像以上に強い心理ダメージを伴うため、事前に設備や利用ルールを理解しておくことが大切です。
本記事では、無響室が体験できるおすすめの施設を5つ紹介し、防音室との構造的な違いや利用する際に覚えておきたい注意点も詳しく解説。これから体験を検討している方はぜひ参考にしてください。
無響室とは?
無響室とは、文字通り「響きが無い部屋」を意味し、室内で発生するあらゆる音の反射を限りなく抑えるように設計された空間です。一般的な部屋では、壁や天井に音が跳ね返り、声や物音が反響して聞こえますが、無響室では壁や床、天井全体が吸音材で覆われているため、音がほとんど反射せず、吸収されてしまいます。
そのため、話し声すら小さく感じられ、自分の呼吸音や心臓の鼓動、関節のきしむ音など、普段は意識しない体内の音が聞こえることも。
音響機器や製品の正確な性能測定、聴覚に関する研究など、精密な実験や開発に活用されるほか、一般の人が体験すると静寂の不思議さや孤立感を味わうことができる空間として注目を集めています。
無響室の違いについては以下の記事を参照ください。
無教室と防音室の違い
無響室と防音室はどちらも音を遮断する設備ですが、目的と性能が異なります。主な違いは以下の表を参照ください。
| 部屋名 | 概要 |
| 無響室 | 外部の音を遮るだけでなく、室内の音の反射も徹底的に吸収し、残響をほぼゼロにする設計 |
| 防音室 | 外部の音を遮ったり、室内の音が外に漏れないようにすることを目的とした空間 |
防音室は主にカラオケ部屋などが該当しますが、無響室は音響測定や製品評価などの用途で使用されます。
無響室を体験する方法

無響室を体験する方法は主に以下2つです。
- 大学や研究機関が行う一般公開イベントに参加する
- 音響メーカーや企業のショールームで体験サービスを利用する
①大学や研究機関が行う一般公開イベントに参加する
無響室は主に大学や研究機関、音響メーカーの施設に設置されており、普段は研究や製品開発専用ですが、年に数回一般向けの見学会や体験イベントが実施されることがあります。
イベントでは、解説を聞きながら実際に無響室へ入り、残響がほとんどない空間の不思議さや、呼吸音・心音が異様に聞こえる感覚を体験できます。事前予約が必要な場合が多いので、開催情報を大学の公式サイトで確認し、参加しましょう。
②音響メーカーや企業のショールームで体験サービスを利用する
一部の音響機器メーカーや防音設備の会社では、顧客向けに無響室の体験サービスを提供している場合があります。ショールームを予約すれば、製品説明の一環として無響室を案内してもらえるため、短時間でも本格的に静かな空間を味わえます。
企業によっては体験だけの利用を受け付けているところもあるため、公式サイトや問い合わせフォームから相談してみるとよいでしょう。興味がある方は、製品購入予定がなくても遠慮せずに利用可否を確認してみてください。
無響室が体験できるおすすめの場所7選

無響室が体験できるおすすめの場所を7つ紹介します。価格や特徴については以下の表を参照ください。
| エリア | 体験場所 | 価格 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 東京 | ① NTTインターコミュニケーション・センター | 無料 | 暗転+音響作品体験型 |
| ②日本工学院八王子専門学校 | 問い合わせ | 録音スタジオ以上の遮音・吸音性能 | |
| 静岡 | ③ソノーラテクノロジー「富士山テクニカルセンター」 | 無料 | 測定デモ+工場見学付き |
| 大阪 | ④大阪産業技術研究所 | 1,900円/時 | 各種実験・測定利用可 |
| 兵庫 | ⑤兵庫県立消費生活総合センター | 550円~1,900円 | 消費者相談併設で個人利用むけ |
| 茨城 | ⑥産業技術総合研究所 つくばセンター | 無料 | ワークショップ形式の科学体験 |
| 名古屋 | ⑦名古屋市工業研究所 | 11,000円/半日 | 製品・部品の騒音レベル測定 |
東京の無響室体験場所
まずは東京で無響室が体験できる場所を2つ紹介します。
- NTTインターコミュニケーション・センター
- 日本工学院八王子専門学校
① NTTインターコミュニケーション・センター
NTT東日本が東京・初台のオペラシティで運営するICCの常設展示に設置された無響室は、完全な無反響空間を利用した体験型施設です。入室時には整理券を受け取り、室内では暗転した中でスピーカーから選曲した音響作品を聴きながら、周囲のすべての反響が消えた状態を体験できます。
照明が落とされるため視覚的にも遮断感が高く、心臓の鼓動や血流の音まで聞こえる独特の圧迫感も味わえるでしょう。入室前の注意説明や緊急停止ボタンが備えられており、初めての人でも安全に参加できる設計です。
②日本工学院八王子専門学校
日本工学院八王子専門学校の無響室は、壁・天井・床の全面に高性能な吸音材が配置されており、音の反射を極限まで抑えることで、スピーカーやマイクの特性を測定できる環境の無響室です。
この施設は録音スタジオ以上の高い遮音性吸音性を持ち、主に音響機器の計測や音響工学の学習・実習に活用されています。音響芸術科やミュージックアーティスト科などが使用する場所で、学生が音響理論と実体験の両面から学べる実習空間として、在学中にプロレベルの音環境を体験できるという点が特徴です。
静岡の無響室体験場所
次は静岡で無響室を体験できる場所を紹介します。
- ソノーラテクノロジー「富士山テクニカルセンター」
③ソノーラテクノロジー「富士山テクニカルセンター」
静岡県御殿場市にあるソノーラテクノロジーのショールームには、組立式無響室H-3や無響箱TYPE2など複数のモデルが常設展示されています。音響測定器を使った実演とともに、吸音材に囲まれた空間の静寂度を体感可能です。
製品購入検討者以外の一般見学も可能で、工場見学や製品説明もセットで体験できます。最新性能の無響室を通じて、市販防音室との違いや吸音原理を学べる教育的要素が強い点も魅力です。
大阪の無響室体験場所
大阪では、学術的に紹介できる無響室を体験できる場所を紹介します。
- 大阪産業技術研究所
④大阪産業技術研究所
地方独立行政法人 大阪産業技術研究所(大阪大学産業科学研究所ではありません)が運営する無響室は、室内暗騒音15dB以下を実現しています。1時間単位で貸し出され、「JIS Z 8732」に準拠した逆二乗則特性を備え、マイクロホンやスピーカーの特性測定から心理実験、暗視空間としての利用まで幅広く受け入れています。
大学や企業研究者以外でも申請可能で、集中して「音のない世界」を学術的に活用したい個人にも開かれています。
兵庫の無響室体験場所
関西では、大阪だけでなく兵庫でも体験できます。有料ではありますが、多目的利用が可能です。
- 兵庫県立消費生活総合センター
⑤兵庫県立消費生活総合センター
兵庫県立消費生活総合センター西部工業技術センター内にある無響室は、定員1~2名で利用できる小型の完全無響空間です。1時間あたり550〜1,900円で貸し出しており、消費者向けの防音・音響相談と併設された施設の一部として一般開放されています。
設備は床面に金属ネット、壁面に吸音パネルを配置し、体感的に「音が一切跳ね返らない」環境を提供。学校の理科実験や音響機器の比較試聴など、多目的利用が可能です。
茨城の無響室体験場所
茨城の無響室は、子供から大人まで体験できる場所です。
- 産業技術総合研究所 つくばセンター
⑥産業技術総合研究所 つくばセンター
茨城県つくば市にある産総研つくばセンターでは、年数回の一般公開イベント「つくばサイエンスフェア」などの際に無響室を公開しています。完全吸音構造の実験室で、専門機器を用いた「音のない世界」体験プログラムを実施。
参加無料で、科学館と連携したワークショップ形式のイベントとして、子どもから大人まで幅広い層が利用できます。事前申込制のイベント期間中限定での提供ながら、研究所直営ならではの最先端技術と解説が受けられる点が魅力です。
名古屋の無響室体験場所
最後は名古屋で体験できる無響室を紹介します。
- 名古屋市工業研究所
⑦名古屋市工業研究所
名古屋市工業研究所の無響室は、シールドルームと簡易無響室の性質を兼ね、本格的な音響実験や製品・部品の騒音レベル測定に適した施設です。壁と天井に高機能な吸音材を配置することで、外部の騒音や反射音の影響をほぼ受けずに音響測定が可能です。
工業製品の動作音評価や材料の音響特性試験などに幅広く利用されており、高い遮音・音響性能を有しながら、外部利用も認められている点が特徴です。
無響室の体験場所を選ぶ際の3つのポイント

無響室を選ぶ際は以下3つのポイントを留意しましょう。
- 防音性能だけでなく残響時間のデータを確認する
- 空調や照明など長時間利用に適した設備が整っているか
- 目的に合わせた床構造・設置方法の適正を確認する
①防音性能だけでなく残響時間のデータを確認する
無響室を選ぶ際は、単に防音性能や外部騒音の遮断力だけでなく、室内の残響時間のデータを確認しましょう。残響時間が短ければ、声や音が全く反響しない無音状態が生まれます。
無音状態は、研究や計測には理想的ですが、一般利用の場合は閉塞感やめまいを感じる原因に。そのため、用途に応じて「完全無響室」か「準無響室」を選ぶ必要があります。
事前に残響時間の測定データや仕様書を確認し、自身の目的に合致する空間であるかを判断しましょう。
②空調や照明など長時間利用に適した設備が整っているか
無響室内は外部との遮音・遮蔽性が高く、気密性が高いため、長時間の利用は室温や湿度が上昇しやすい傾向に。とくに防音ドアを閉め切ったまま計測や体験を行う場合、空調設備が適切に設計されていないと、短時間で息苦しさや集中力低下、体調不良を引き起こす恐れがあります。
また、完全に暗い環境で利用することもあるため、調光できる照明や緊急通報システムなど、安全面への配慮も必要でしょう。無響室の設備は以下のポイントを確認しましょう。
- 室内に静音設計の空調機器が備わっているか
- 温湿度管理が可能か
- 利用者の安全確保のための非常ボタンや監視システムが整っているか
整っていれば、計測や実験に集中しやすく、体験でも安心して使用できます。
③目的に合わせた床構造・設置方法の適正を確認する
無響室の床は、計測精度や利用目的によって仕様が異なります。たとえば「フローティングフロア」と呼ばれる吊り床構造は、歩行の振動や床から伝わるノイズを遮断できるため、高感度マイクで音響特性を測定する際に適しています。
一方、見学や体験イベントでは吊り床構造の上を歩くと不安定で怖さを感じる場合も。また、床下に吸音材を設置する方式や固定床構造もあり、用途に応じて選ぶ必要があります。
安全に無響室体験する3つのポイント

無響室は使用方法によって危険を伴うこともあります。ここでは以下3つの注意点を解説します。
- 滞在時間を長くしすぎないようにする
- 体調が良いときに体験する
- 暗闇や閉所が苦手な人は慎重に検討する
①滞在時間を長くしすぎないようにする
無響室は音の反射がほとんどなく、自分の呼吸音や心臓の鼓動、血液の流れる音まで鮮明に聞こえるほどの静寂が生まれるため、長時間滞在すると孤立感や不安感、平衡感覚の乱れを感じることがあります。
「無響室に滞在できる時間はどのくらい?」という疑問を持つ方も多いですが、個人差が大きく、無響室に入った人の最長滞在時間は約55分とされています。初めての場合は数分から10分程度が目安であり、人によってはめまいや吐き気を引き起こすこともあり、無理に耐え続けると体調を崩してしまう恐れもあります。
慣れないうちは滞在時間を長くしすぎないよう注意し、気分が悪くなりかけたらすぐに退出することが大切です。
②体調が良いときに体験する
無響室では視覚や聴覚の情報が極端に少なくなるため、普段よりも自律神経や平衡感覚に負荷がかかります。風邪気味や寝不足、緊張が強いときに入ると、わずかな音や静寂に敏感になってしまい、頭痛や動悸、息苦しさを感じやすくなる方も少なくありません。
また、耳の不調がある方は音の感じ方が通常と異なる場合もあります。体験前は体調を整え、リラックスした状態で入室するようにしましょう。万一異変を感じたら無理をせず退出してください。
③暗闇や閉所が苦手な人は慎重に検討する
無響室は高い遮音性を確保するために密閉構造となっており、ドアを閉めると閉所感が強く、内部は照明を落とすとほぼ完全な暗闇になります。そのため、閉所恐怖症や暗所恐怖症の傾向がある人には強いストレスを引き起こすことがあり、急な不安発作やパニックを招くことも珍しくありません。
事前にスタッフに相談し、扉を完全に閉めずに体験できるか、照明をつけたままにできるか確認するなど、自分に合った無理のない体験方法を選ぶことが大切です。
無響音室を体験する前には以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
無響室の体験についてまとめ
無響室は、音が一切反射しない環境で、普段の生活では味わえない静寂を体験できる空間ですが、想像以上に強い心理的・身体的影響を及ぼすことがあります。体験する際には、滞在時間を短めに設定し、必ず体調を整えておくこと、閉所や暗闇に不安を感じやすい方は無理をしないなど、安全面に配慮することがとても大切です。
今回ご紹介したおすすめの施設は、研究用途だけでなく一般向けの見学会やイベントなど幅広い機会が用意されているので、興味がある方は公式情報を確認し、利用しましょう。