2016年12月9日、東京秋葉原のUDXシアターで、Fusion 360ユーザーのためのMeetupイベント「Fusion 360 Meetup vol.06」が開催されました。このイベントは、Fusion 360エバンジェリストの藤村祐爾氏が中心となって、日本各地で行われているもので、今回が6回目の開催となります。今回のMeetupは、過去最高となる180人以上の参加者が集まり、大きな盛り上がりを見せただけでなく、内容も非常に充実していました。速報レポートは、すでに掲載されていますが、こちらではその中から、特に興味深かった講演の内容を紹介します。
Akerun Proの開発ではFusion 360が必要不可欠
Fusion 360 Meetup vol.06では、スマートロック「Akerun Pro」を開発した、フォトシンスの関谷達彦氏が講演を行いました。まず、関谷氏は、Akerun Pro本体だけでなく、ドアセンサー、NFCリーダー、パッケージもFusion 360を使って作成されたことを明らかにしました。関谷氏いわく、それらは、材質によって製造方法もさまざまで、例えば、Akerun Pro本体のプラスチック部分は、熱を利用して加工する射出成形で、スペーサーの金属部分は板金プレスで製造されています。また、本体のノブ部分は、コンピューターで制御コントロールを行うCNC旋盤によるアルミ切削で製造されていますが、これらはすべてFusion 360で設計されたものとのことです。
Akerun Proの開発プロジェクトが開始されたのは2015年11月で、それからわずか8カ月後の2016年7月にはAkerun Proがリリースされました。この短い期間での開発を助けたのが、Fusion 360だったそうです。まず、原理試作では、Fusion 360を用いて、機構がきちんと動作するかチェックを行い、サイズ・デザイン検討では、電池や内部機構も全て入れて、そのサイズに収まるか検討を重ねると同時に、3Dプリンターでプロトタイプの外装を作成して、実際のサイズ感も検討したとのことです。
Akerun Proの開発試作では、作成したベースを元に外装部品を設計することで効率化を図ります。また、原点を合わせて挿入するだけで組み立て状態になるように設計して、トラブルを減らしたそうです。外装部品の設計では、Fusion 360の解析機能を利用して、強度解析も行いました。量産の際には図面が必要になりますが、これもFusion 360の図面機能を用いて作成したとのことです。さらに、Fusion 360のレンダリング機能によって得られたCG画像を、広告や営業資料などにも活用したそうです。
関谷氏は最後に、Akerun Proの開発者向けサイトがオープンしたことを知らせ、Akerun Proをより便利に進化させるアプリを、みんなで作ってほしいとアピールしていました。
Akerun Proを開発したフォトシンスの関谷達彦氏
Akerun Pro本体だけでなく、スペーサーやドアセンサー、NFCリーダー、パッケージもFusion 360を使って作られた
本体のプラスチック部分は、熱を利用した射出成形で製造されている
スペーサーの金属部分は、板金プレスで製造されている
本体のノブ部分は、CNC旋盤によるアルミ切削で製造されている
まず、原理試作ではFusion 360を用いて、機構がきちんと動作するかチェックを行った
サイズ・デザイン検討では、電池や内部機構も全て入れて、そのサイズに収まるか検討を行った
また、3Dプリンターを利用してプロトタイプを製作し、サイズや形状などを検討した
開発試作では、ベースとなるフィーチャーを作成し、それを元に外装部品を設計した
また、アセンブリでは、原点を合わせて挿入するだけで組み立て状態になるように設計した
外装部品の設計では、Fusion 360の解析機能を利用して強度解析も行った
量産の際に必要な図面も、Fusion 360の図面機能を用いて作成した
さらに、Fusion 360のレンダリング機能を用いて作った画像を、広告に使っている
Akerun Proの開発者向けサイトがオープンしたとのこと
【フォトシンス 関谷達彦氏の講演資料】
http://a360.co/2hD7F87
Fusion 360でカーモデリングを行う方法を解説
日南の猿渡義市氏は、Fusion 360でのカーモデリングについて講演を行いました。猿渡氏は、以前日産に在籍していたカーデザイナーで、さまざまな車のデザインを行ってきました。同氏は、オートデスクの「Alias SpeedForm」を使って、1枚の下絵から車のボディを作り出す過程の動画を公開しました。Alias SpeedFormのほうが、Fusion 360よりも使えるコマンドは多いのですが、基本的な考え方や作業の仕方はFusion 360でもそのまま使えるとのことでした。その作業の流れは次のようになります。
まず、下絵を読み込ませたら、そのボディの基準となる線を下絵にそってプロットしていき、その線を手前に引き出して面を作り出します。その面を下に曲げて側面を作り、さらにホイールハウスの輪郭を指定して、切り取ります。面を動かして全体的な形を整え、ミラー機能を使って左右対称に複製し、屋根の部分を繋げます。最後に全体を調整してから曲面にすることで、車のボディが完成します。猿渡氏によると、ここまでの作業は慣れれば半日ほどでできるとのことでした。
日南の猿渡義市氏。手にしているのは、実車の1/10サイズの模型で、3Dプリンターで作られたもの
Alias SpeedFormを使ったカーモデリングのプロセス。まず、下絵を読み込む
ボディの基準となる線を指定して手前に引き出す
面を下に曲げて側面を作る
ホイールハウスの輪郭を指定する
ホイールハウス部分を切り取る
ミラー機能を使って左右対称に複製する
屋根の部分を繋げて、全体を調整する
ここまでの作業は、慣れれば半日もかからないという
【日南 猿渡義市氏のカーモデリング動画】
① https://youtu.be/viHobl1Psj4 ② https://youtu.be/wcjNjtWZstU
本体からケースまで。Fusion 360を使ったオリジナルヘッドフォンの作り方を紹介
最後に講演を行ったのが、日南の岡広樹氏です。岡氏は、ソニーでプロダクトデザインに携わっていて、ビデオカメラやラジカセなど、さまざまなプロダクトのデザインを行ってきました。今回の講演では、Autodeskブランドのワイヤレスヘッドホンのデザインを依頼されたという想定で、Fusion 360でのデザインの手順を紹介していました。
岡氏によると、デザインコンセプトは金環日食で、そのイメージに基づいて、平面にスケッチを作成しているそうです。そのスケッチを元に、立体的な形状を作っていきます。各パーツができたら、アセンブリ機能を使って、ヘッドホンを折りたたむ動きなどのシミュレーションを行い、モーションリンク機能を使って、アニメーションでその動きを確認します。本体ができたら、携帯用ケースを作成します。携帯用ケースは、Fusion 360の豊富なモデリング機能の一つであるパッチ機能を利用することで、ごく短時間でモデリングできたそうです。最後にロゴなどを貼り付けてレンダリングすれば、このまま市販品としても人気が出そうな、デザイン性と機能性に優れたワイヤレスヘッドホンのCG画像の完成です。
日南の岡広樹氏
Fusion 360を使ってAutodeskブランドのBluetoothヘッドホンをデザインした。デザインコンセプトは、金環日食である
これが完成したBluetoothヘッドホンである
折りたたんで収納できる携帯用ケースもデザインした
まず、スケッチを元に立体化する
次にアセンブリ機能を使って、動きをシミュレーションする
さらに、モーションリンク機能を使って、アニメーションで動きを確認する
パッチ機能を使って、携帯用ケースを作っているところ
このような携帯用ケースが簡単にできる
完成したBluetoothヘッドホンと携帯用ケース
【日南 岡広樹氏の講演資料】
http://a360.co/2hoO5vY
【日南 岡広樹氏の講演動画(全7作)】
https://youtu.be/REmMkH_XY64
このイベントでは、講演者の言葉に真剣に耳を傾け、メモを取っている参加者が多く見られました。経験豊富なデザイナーや開発者が、実際にどのような手順でモデリングをしているかを解説してくれる機会は、とても貴重なものです。このイベントに参加したFusion 360ユーザーの中から、新しい未来のプロダクトを生み出す人物が現れるかもしれません。