2017年7月21日、東京タワー麓のスターライズタワーで、Fusion 360ユーザーのためのMeetupイベント「Fusion 360 Meetup vol.08」が開催されました。このイベントは、Fusion 360 エバンジェリストの藤村祐爾氏が中心となって、日本各地で行われているもので、今回が8回目の開催となります。今回のMeetupでは、Fusion 360の最新情報からFusion 360の活用事例、3Dプリンティングの今後など、Fusion 360ユーザーにとって業界のさらなる飛躍を期待させる講演と、講演の合間には恒例のノベルティがプレゼントされるじゃんけん大会が行われました。イベントの内容を簡単に紹介します。
Fusion 360の最新アップデートが明らかに!待望の板金機能がついに実装
最初にFusion 360 エバンジェリストの藤村祐爾氏がFusion 360の最新アップデートについて解説を行いました。Fusion 360の次のアップデートは8月8日の予定で、待望の板金機能がついに実装されるほか、スケッチ機能が拡充され、接線寸法を求める機能やアークスロット、パスに沿ったテキスト配置などの機能が追加されます。また、モデリング機能も強化され、スイープツイストなどの機能が追加されるとのことです。
Fusion 360エバンジェリストの藤村祐爾氏
8月8日のアップデートで、待望の板金機能がいよいよ実装される
スケッチ機能も拡充され、接線寸法を求める機能やアークスロット、パスに沿ったテキスト配置などの機能が追加される
Fusion 360活用の最新事例から3Dプリンティングの今後まで、さまざまな講演が行われる
次に、GEAR DESIGN代表の大上武彦氏が、Fusion 360とZBrushを活用した最新事例の発表を行いました。Fusion 360とZBrushでは、得意分野が異なり、前者は寸法を重視した正確なモデリングや機構設計などが得意で、後者は曲線や曲面を活かした有機的なデザインが得意です。その両者を組み合わせることで、複雑な曲面を持ったフィギュアの中に、動く機構部品を搭載させることができたそうです。
GEAR DESIGN代表の大上竹彦氏
Fusion 360とZBrushを活用してフィギュアを製作している
機構はFusion 360で設計し、曲線的なデザインはZBrushで行っている
続いて、Space Drifter VR 成層圏プロジェクトのリーダー近藤憲氏が、世界初となるVR成層圏プロジェクトについて講演を行いました。近藤氏は、サーフィンをしている時に宇宙を感じ、人脈も資金も経験もない状態で民間宇宙開発を目指したという異色の経歴をお持ちの方です。近藤氏は、大きなヘリウムバルーンに6面にカメラを搭載した立方体を吊して、動画を撮影しながら成層圏を目指すSpace Drifter VR 成層圏プロジェクトをスタートしました。世界初の試みが実現するための準備期間はなんと1カ月。たまたまFusion 360エバンジェリストの藤村氏と出会い、Go Proカメラを格納する箱の設計の協力を得ることで、無事にバルーンの打ち上げおよび箱の回収に成功したそうです。
Space Drifter VR 成層圏プロジェクトのリーダー近藤憲氏
Go Proカメラを格納する箱はFusion 360を使ってモデリングされた
こちらが3Dプリンタで出力された箱。立方体形状をしており、各面に1台ずつ、合計6台のGo Proカメラが搭載されている
続いて行われた、Genkei.LLC代表の加藤大直氏の講演内容は、「3Dプリンティングの今までとこれから」。加藤氏は、2006年後期にRepRapに触れて3Dプリンターを作り始め、当時世界最大となる3Dプリンター「Magna」を作るなど、さまざまな取り組みを行ってきました。加藤氏は、2Dが「見るだけ」だったのに対し、3Dでは「使う」ことができるようになったことを解説し、その先は「Feel」、つまり感じるということだと語りました。つまり、単なる形だけでなく、環境や匂い、味、体感、触感も再現できるものが、未来の3Dプリンターだと考えているそうです。また、加藤氏が最近手がけた面白いものとして、3Dプリンターと形状記憶樹脂を組み合わせたバッグを紹介しました。一見、平面に見えますが、入れたものの形に沿って生地が変形し、ぴったりものを包み込むという、次世代のバッグでした。
Genkei.LLC代表の加藤大直氏
3Dプリンティングが未来にかける可能性について、自身の見解を語った
加藤氏が最近手がけた、次世代バッグのシミュレーション。日本古来の和柄モチーフと形状記憶樹脂を使用した新しい3Dプリント技術を織り交ぜたアイテム
3Dプリンターと形状記憶樹脂を組み合わせることで、伸縮自在で入れるものにぴったりフィットして包み込むバッグになる
株式会社カブクの横井康秀氏は、「3Dプリント技術を活用した車両開発」というタイトルの講演を行いました。横井氏は、Hondaと共同で、超小型EV「MC-Beta 豊島屋カスタマイズモデル」を製作しました。豊島屋は、鳩サブレーで有名な鎌倉の菓子屋ですが、地域限定で宅配を行っており、古都鎌倉ならではの狭い道での業務に課題を抱えていました。そこで、そのニーズに応えるために、横井氏はFusion 360と3Dプリンターを駆使して、豊島屋オリジナル箱にぴったり合う荷室サイズや、鳩サブレーや会社ロゴをデザインに活かした、オンリーワン車両を製作。宣伝もできる配送車として注目を集めています。
株式会社カブクの横井康秀氏
鳩サブレーのモチーフや会社ロゴをそのままデザインに活かしている
この超小型EVのデザインには、Fusion 360がフルに活用された
続いて、Autodesk Expert Eliteの神原友徳氏が「Dynamo(ダイナモ)+Fusion 360で可能になる新造形」と題した講演を行いました。Dynamoは、誰でも簡単に使えることを目的として開発されたビジュアルプログラミングツールで、Fusion 360と組み合わせることで、パラメータによってモデルの形状を変更するジオメトリベースでのモデリングが可能になります。スライダーを動かすだけで、イルカの表面に立体的な模様を付けるデモなどが行われました。
Autodesk Expert Eliteの神原友徳氏
Dynamoには1000以上のカスタムパッケージが公開されており、複雑な処理も容易に行うことができる
Dynamoの操作(画面左)が、Fusion 360上(画面右)に瞬時に反映される
続いて、井上幸人氏が「Fusion 360で作る新感覚パズル」という講演を行いました。井上氏は、おばけの形をモチーフにしたパズルを以前から作っており、最新作として、かわいらしいおばけのピースを正しくはめ込むことでおばけの目が光る「おばけパズル」を仲間と共に開発しました。おばけパズルは、非接触給電で目が光ることが特徴ですが、その仕組みの開発にFusion 360が大活躍したそうです。電気やデザイン担当のメンバーとFusion 360のクラウドデータを使ってやりとりをしながら、設計を行い、完成度を高めていきました。
Obakepuzzle.com代表の井上幸人氏
おばけパズルは非接触給電で目が光ることが特徴だが、その仕組みの調整は細かく、電気/デザイン担当者とやりとりにFusion 360のクラウドシステムが活躍したそう
さまざまなおばけパズル。表裏のないデザインのため、大人でも頭を悩ませるほど難易度が高い
最後に、3Dプリンタで鉄道を作るコミュニティ「CAD鉄」主宰の斉藤正宏氏が「Diorama Explorer開発の舞台裏」と題した講演を行いました。斉藤氏はまず、CAD鉄の目的は、すべての鉄道ファンに3D CADスキルを身につけてもらうことであり、Fusion 360を使った鉄道モデリングの講習会などを開催していると説明しました。次に、本業として開発した、「ジオラマに没入する」新感覚鉄道模型運転システム「Diorama Explorer」を紹介。カメラを載せた鉄道模型のリアルタイム映像を見ながら、タブレットのアプリで運転するシステムです。Diorama Explorerの開発にあたって、最も苦労したのは、カメラをいかに自然な形で車両として搭載するかということで、その車両デザインにFusion 360が使われたそうです。
「CAD鉄」主宰の斉藤正宏氏
Diorama Explorerは、Fusion 360を使って設計された
NゲージサイズのDiorama Explorer「Type N」。タブレットでスピードやライトの点灯も操作できる
そのほか、展示スペースには今年刊行した書籍『FUSION 360 Masters』(ソーテック社)に掲載されている、選りすぐりのクリエイターたちの作品が並びました。
展示スペースには、Fusion 360を使って作られたさまざまな作品が展示されていた
回を重ねるごとに、参加者同士の交流も深まるMeetupイベント。Fusion 360を使うクリエイターとイベント参加者同士でFusion 360の活用方法や製作環境などの話題で盛り上がっていました。次回の開催も見逃せません。