生産人口の減少や国際競争の影響で、製造業の生産性向上が重要視されています。限られた予算で最大限の成果を得るために何をすれば良いか困っている企業も多いでしょう。そこで、本記事では以下の内容について解説します。
- 製造業において生産性向上が重要な背景
- 製造業が生産性向上に取り組むメリット
- 製造業の生産性向上に成功した事例
- 製造業の生産性を向上させる具体的な施策
本記事を最後まで読めば、生産性向上を実現するヒントを得られるので、ぜひ参考にしてみてください。
製造業の生産性向上とは?
製造業の生産性向上とは、投入した資源に対してどれだけ多くの成果を生み出せるかを高める取り組みです。生産性は「産出量÷投入量」で表され、人員・設備・原材料といった経営資源の投入量に対する製品生産量の比率を意味します。経営層との共通言語として、生産高の基本概念や計算方法、労働生産性・設備生産性・資本生産性の違いを理解することが重要です。
生産高とは
生産高とは、生産物の総額もしくは総量のことで、それを支える生産性「労働生産性・設備生産性・資本生産性」3つの視点で測定されます。
- 労働生産性:従業員1人あたりまたは労働時間1時間あたりの付加価値
- 設備生産性:機械や設備投資に対する成果
- 資本生産性:企業の保有資本全体の効率性
これら3指標をバランスよく測定し、過去データや同業他社と比較することで改善点を洗い出すことが可能です。
製造業において生産性向上が必要な背景
製造業において生産性向上が重要なのは、以下のように企業を取り巻く環境が急激に変化しているためです。
- 国内労働人口の減少
- 国際競争の激化
- 原材料費高騰
これらは、個別企業の問題ではなく日本の製造業全体が直面する課題なので、ここで押さえておきましょう。
国内労働人口の不足
日本の労働人口は減少傾向にあり、製造業は特に深刻です。総務省の調査によると、2003年から2022年の間で製造業の就労人口は約125万人減少しています。
働き方改革による残業規制も厳しくなり、稼働時間も制限されているのが現状です。制約が多い中で成果を出すためには生産性向上が不可欠で、限られた人員で従来以上の成果を出す仕組みの構築が求められています。
国際競争の激化
グローバル競争の激しさが増しているのでも、生産性向上が重視される背景の一つです。
かつて日本は世界の輸出額の約10%を占めていましたが、現在は新興国が台頭しています。海外の競合企業も、低価格で安定した品質の提供に意欲を見せているため、同品質の製品をより効率的・低コストで生産する必要があるのです。
原材料費の高騰による利益率の低下
エネルギー価格上昇や資源不足、円安の影響で仕入れコストは年々増加しています。中小企業庁の調査でも、2020年頃から原油や天然ガス、アルミニウムなどの資源価格が上昇傾向にあると発表しています。
顧客との長期契約や価格競争により、コスト増を販売価格に転嫁することが困難なケースも多いです。販売価格を抑えつつ利益向上を実現するうえで、生産効率向上によるコスト削減が重要視されているのです。
製造業で生産性向上に取り組む4つのメリット

製造業を取り巻く環境は厳しくなっていますが、生産性向上に取り組むことで以下のようなメリットを得て克服することを期待できます。
- コスト削減により利益率が向上する
- 現場の省力化により人手不足を解消できる
- 製品の質が安定する
- 従業員の士気向上を見込める
経営層への提案資料作成や現場の協力を得る際、上記のメリットを明確に示すことが成功の鍵です。具体的な数値例も交えて解説します。
①コスト削減により利益率が向上する
生産性向上によるコスト削減は3つの側面から実現できます。人件費抑制は残業削減で達成され、例えば100名の工場で月20時間の残業を10時間に削減すれば年間300万円削減可能です。原材料費と廃棄コスト削減は不良率改善で実現し、5%から3%への改善で年間240万円の効果があります。
在庫管理最適化により倉庫スペース削減や資金有効活用も可能です。このように数百名規模の工場だと大幅な利益率向上を期待できます。。
②現場の省力化により人手不足を解消できる
生産性向上は「人を減らす」のではなく「少ない人数でも成果を出せる仕組みづくり」です。
作業効率化により同じ人数でより多く生産でき、動線改善や工程統合で1人あたりの生産量が改善します。多能工化推進で1人が複数工程を担当できれば、急な欠員や繁忙期の偏りに柔軟対応できるでしょう。動画マニュアルやデジタルツールを上手に活用すれば、これまで長期間かかっていた熟練工の育成も、短期間で達成できるかもしれません。
このように現場の生産性が向上すれば、実務・教育面で人手不足の解消を期待できます。
③製品の質が安定する
正しい生産性向上は品質の安定化と向上にもつながります。例えば、作業標準化によるばらつき削減では、SOP整備でベテランも新人も同じ手順で作業できるため、不良率の低下を期待できます。
ベテラン依存からの脱却では、技術やノウハウを形式知化して若手に継承し、誰がやっても同じ一定の品質を維持できるはずです。不良率低下による顧客満足度向上はクレーム対応工数削減にもつながり、取引先からの信頼が高まり新規受注のチャンスも増えるでしょう。
④従業員の士気向上を見込める
生産性向上は従業員の働きやすさ改善とモチベーション向上も実現できます。
具体的には残業削減により働きやすい環境が実現し、プライベート時間増加でワークライフバランスが改善されます。改善活動への参加で「自ら職場を良くしている」という実感が生まれ、金銭的報酬以上のやりがいを提供できる可能性が高いです。
離職率低下と人材定着により好循環が形成されると、採用コスト削減にもつながるでしょう。
製造業の生産性向上に成功した事例
製造業において生産性向上は多様なメリットをもたらしますが、自社にも応用できるのか疑問をもつ企業も多いでしょう。ここでは生産性向上に成功した企業事例を紹介します。最新技術の導入や技術継承の工夫など汎用的な施策も盛り込まれているので、参考にしてみてください。
IoTの導入により設備停止時間を削減|キリンビール
キリンビールはIoTセンサーで設備管理し、突発的設備停止を大幅削減しました。工場では予兆管理による設備検査が課題に上がっており、事故を未然に防ぐ取り組みが不可欠でした。そこで、生産ライン設備にIoTセンサーを取り付け、稼働状況をリアルタイム監視し、振動・温度・稼働時間データを24時間収集して異常予兆の早期発見を実現。
蓄積データ分析で最適な保全計画も立てられ、設備の不具合パターンが見えるため計画的メンテナンスを可能にしたのです。最新技術で設備の停止リスクを排除し、生産性の維持を実現した好例と言えます。
半導体製造ロボットの生産革新に成功|安川電機
安川電機は、半導体用ロボット部門において生産革新活動「CHANGE3」を実施し、生産性150%達成という成果を上げました。
個別にカスタマイズされた一品一様の製品づくりが中心で、ライン化が容易ではない状況でした。現場観察の結果、作業者の動きにスピード感がなく、時間の意識が希薄であるという課題も浮き彫りになったのです。
そこで最適なレイアウト構築と工数削減、意識改革を実施しました。動画による作業分析や勉強会の開催、出荷導線の見直しで主要機種に対する生産性向上を実現。最新技術と現場マネジメントのハイブリッドで、組織の生産性を高めた好例です。
参考:国内コンサルティング事例|株式会社テクノ経営総合研究所
動画マニュアルの整備により技術・ノウハウの早期共有を実現|アルバック
アルバックは動画マニュアル活用で作業手順を見える化し、生産性67%向上という成果を達成しました。2つの拠点を構えていましたが両者の生産性の差が浮き彫りになっており、その差を解消するために技術・ノウハウの共有が課題となっていたのです。
そこで、従来の紙マニュアルやOJTに代わり作業工程を動画で記録し、定点カメラで作業全体の流れを撮影。手元の細かい動作も記録して文字では伝わりにくいノウハウを視覚的に共有しました。動画マニュアルを複数拠点で共有し「なぜその作業が必要か」「どうすれば効率的か」を議論し、半年間の取り組みで作業時間を78分短縮、1日あたり生産可能数が1.67倍になりました。
身近な端末を駆使して他拠点に技術を水平展開した実現した事例と言えます。
製造業の生産性を向上させる具体的な施策

前章の企業事例を踏まえて、製造業の生産性向上に役立つ施策を解説します。
- 5S活動の徹底による現場改善
- 作業標準化とSOP(標準作業手順書)の整備
- 多能工化による人材の柔軟な配置
- 設備レイアウトの見直しと動線の最適化
- 生産工程の統合と簡素化
- デジタル技術の活用
少額の設備投資や業務改善でも対応できるケースもあるので、予算に限りのある企業の参考になるでしょう。
5S活動の徹底による現場改善
5Sとは、整理・整頓・清掃・清潔・しつけの頭文字を取ったものです。例えば、工具や部品を探す時間が1日1人あたり30分かかっているとすると、100名の工場で年間約1,200時間もの時間を無駄にしている計算になります。
5S活動を再徹底するための3ステップを以下の表にまとめました。
| ステップ | 取り組み内容 | 概要 |
| ステップ1 | 現状の徹底的な見直し | 現場を歩いて使っていない設備・工具・在庫を確認。使用実績がない場合は処分する |
| ステップ2 | 定位置管理の徹底 | すべての工具や部品に指定の置き場所を決め、使ったら必ず元に戻すルールを作る。床や棚にテープで場所を示したり、工具を形跡管理したりする |
| ステップ3 | 5S監査の定期実施 | チェックリストを使って各エリアの5S状態を評価し、点数化して掲示板に貼り出すことで現場の意識を高める |
特別な予算がほとんど不要で、すぐに始められるのがメリットといえるでしょう。
作業標準化とSOP(標準作業手順書)の整備
作業の属人化は生産性を大きく低下させる最大の要因の一つです。「ベテランの特定の人にしかできない」という状況は、その人が休むと生産が止まるリスクを抱えています。
SOP(Standard Operating Procedure:標準作業手順書)を整備することで、誰がやっても同じ品質・同じ時間で作業できる体制を作ることが可能です。
効果的なSOPを作成するためのポイントを以下の表にまとめました。
| 取組内容 | 概要 |
| ベテランの暗黙知を形式知化する | ベテラン社員の動きを観察してノウハウを抽出。作業順序の根拠や重要項目を明記する |
| 動画や画像を積極的に活用する | 文章だけでは伝わりにくい細かい手の動きや力加減を視覚的に共有する |
| 継続的な改善を組み込む | SOPは一度作って終わりではなく、現場から提案があれば随時更新。定期的にSOPを見直す機会を設けて、常に最適な手順を維持する |
SOP整備により、作業時間のばらつきが削減され、品質も安定化するという効果が期待できます。
多能工化による人材の柔軟な配置
多能工化とは、1人の従業員が複数の工程や作業を担当できるように育成することで、計画的に進めるための流れは以下の通りです。
| ステップ | 取り組み内容 | 概要 |
| ステップ1 | スキルマップの作成 | 従業員一人ひとりが「どの工程をどのレベルでできるか」を数段階評価で一覧表にし、各々でどのスキルが不足しているか把握する |
| ステップ2 | 優先順位を付けた教育計画 | 全員に全工程を教えるのは非現実的なので、まずは隣接する工程から習得させる。 |
| ステップ3 | OJTと評価の仕組み化 | 整備したSOPを使いながら計画的にOJT(職場内訓練)を実施。一定期間の訓練後に実技テストを行い、基準をクリアしたらスキルマップを更新していく |
多能工化により、突発的な欠員があっても生産が止まらない体制が構築でき、従業員自身もスキルアップによるやりがいを感じられるでしょう。
設備レイアウトの見直しと動線の最適化
設備のレイアウトを見直すだけで、大きな投資なしに生産性向上を実現できるケースもあります。レイアウト改善による動線最適化の3つのアプローチを以下の表にまとめました。
| ステップ | 取り組み内容 | 概要 |
| ステップ1 | 工程の流れに沿った配置 |
|
| ステップ2 | 頻繁に使う物を手の届く範囲に配置 | 1日に何度も取りに行く工具や部品は作業位置から数メートル以内に配置。 |
| ステップ3 | ムダな動作の見える化 |
|
レイアウト変更は時間と費用がかからないケースがが多いため、すぐに取り組める施策といえるでしょう。
生産工程の統合と簡素化
「なぜこの工程が必要なのか」と疑問を持つことも生産性向上に不可欠です。長年続けているからという理由だけで、実は不要な工程が残っていることは珍しくありません。工程の統合と簡素化を進めるための取り組み内容を以下の表にまとめました。
| 取り組み内容 | 概要 |
| 付加価値を生まない工程の削減 | 製品の価値を高めていない工程(運搬、検査、待機など)をリストアップ |
| 複数工程の統合 | 組み立てと検査を別々に行っているなら、組立の最後に検査も同時に行う形に変更し、工程間の移動時間を削減する |
| 待ち時間の排除 | 「前工程の完了を待っている時間」「設備の空き待ち時間」といったムダな待機を見つけて、工程の順序を変えたり、作業を並行化したりして待ち時間を最小化する |
工程統合により、リードタイムの短縮・早期納品も期待できます。
デジタル技術の活用
DXやIoTも製造業の生産性工場において効果的な施策で、下表のような効果が想定されます。
| 施策例 | 初期投資・効果(例) |
| IoTによる設備稼働状況の見える化 |
|
| デジタル現場帳票による集計作業の自動化 |
|
| 段階的なDX推進 |
|
「デジタル技術に明るい人材がいない」「新しく人材を採用するのはコストがかかるので育成したい」という企業は製造業・建設業向けDX無料オンラインセミナーを活用してみてください。製造業におけるDXの最新動向と人材の育成戦略を網羅しています。現場の第一線で活躍した講師がレクチャーするので、実践的な知識を習得できます。
| セミナー名 | 製造業・建設業向けDX無料オンラインセミナー |
|---|---|
| 日時 | 2026年1月27日(火) 14:00~14:30 |
| 価格 | 無料 |
| 開催場所 | Zoomウェビナー(オンライン) |
製造業の生産性を向上させる6ステップ

前章で具体的な施策を紹介しましたが、闇雲に実施しても効果は得られないかもしれません。どの施策を実行するにしても手順を踏むことが重要です。
ここでは製造業の生産性を向上させる6ステップを解説します。
ステップ1:現状把握と生産性の可視化
生産性向上の第一歩は自社の現状を正確に把握することで、測定すべき主要な指標は以下のとおりです。
- 生産量と労働生産性:生産個数や従業員1人あたりの生産量を数値化して、一定期間の平均値や変動パターンを把握
- 設備稼働率と停止時間:各設備の稼働時間割合を測定し停止理由を記録
- 不良率と手戻り作業:製品不良率や検査不合格率、手直し時間を計測
データ収集と並行し現場ヒアリングと定点観察も実施します。
ステップ2:定量的な数値目標の設定
現状を把握したら目標を数値化しましょう。具体的には年間目標を月ごと・週ごとの小さな目標に分解し、小さな成功を積み重ねることが重要です。また工程別・部門別の目標配分では全工程一律でなくボトルネック工程に重点を置き、それぞれ異なる目標を設定して全体目標達成を目指します。
現実的かつ挑戦的なバランスでは「頑張れば達成できる」と現場が感じられる目標設定が理想で、過去データから改善活動で達成された最高値を参考にします。
ステップ3:ボトルネックの洗い出し
限られた時間と予算で最大の成果を出すためには、ボトルネックの特定が極めて重要です。具体的には、以下のように生産性低下の根本原因を見つける分析手法を駆使します。
- 工程分析:時間のムダ発見では各工程時間を計測し「付加価値を生む時間」と「ムダな時間」に分類
- マトリクス評価:影響度と緊急度という観点から課題を4象限に分類し「影響度大×緊急度高」から優先的に実施
ボトルネックが明らかになれば、当初多額の投資を想定していても不要になるケースは珍しくありません。
ステップ4:改善施策の検討と選定
ボトルネックが明確化になったあとは具体的な解決策を考えます。
費用対効果の高さでは各施策の必要投資額と期待効果を試算し、投資回収期間が短い施策から優先実施します。自社リソースでの実行可能性では現在の人員体制・予算・技術力で実現可能かを冷静に判断し、IT人材不足や予算確保困難なら小規模施策から始めましょう。
また、現場の協力を得るときですがトップダウンでの押し付けは失敗しやすくなります。現場が「自分たちでもできる」と感じられる施策を選ぶことが重要です。
ステップ5:施策の試験導入と効果検証
いきなり全社展開せず小規模でテスト実施することが失敗を防ぐポイントです。
まず、パイロット対象の選定では全社でなく特定の部門や工程を選び、協力的な現場リーダーがいる部門で成功時の効果が目に見えやすい工程を選びましょう。効果測定の実施時、試験導入前後で作業時間・不良率・従業員満足度を比較測定し、一定期間の効果を確認します。フィードバックの収集と改善では、現場の声を丁寧に聞いて施策内容をブラッシュアップし、全社展開時の完成度を上げます。
ステップ6:全社展開とモニタリング体制の構築
施策の全社展開後も継続的なモニタリングと改善が必要で、怠ると成果が元に戻るリスクがあります。
成功事例の水平展開では、パイロット実施で成功した施策を他部門に順次広げましょう。成功部門の担当者に説明してもらうと説得力が増します。
PDCAサイクルの運用体制では、経営層も交えた定例会議で進捗を確認します。後戻り防止の仕組みを構築する際には、5S監査継続、SOP定期見直し、成功事例の共有が重要です。
また、定期的モニタリングで目標達成度を可視化すれば、迅速に対策を講じることができるでしょう。
まとめ
製造業の生産性向上は、経営層の期待と現場の実情のバランスを取りながら進めることが成功の鍵です。
いきなり大きな改革でなく、段階的アプローチが成果を出す近道です。特に重要なのはデータに基づく意思決定と現場を巻き込んだ改善活動の両立です。経営層には定量的数値で説明し、現場には「働きやすさも向上する」メリットを示すことで全社一丸の取り組みが可能になるでしょう。
最新技術の導入や工程の見直しなど多様な施策が考えられるので、自社の課題と達成したい目標にあわせて取捨選択してみてください。