原子力を用いた研究開発機関「原子力機構(正式名称、日本原子力研究開発機構)」が金属を抽出するリサイクル技術において、より正確な抽出方法を発見したと発表しました。では、これまでの抽出方法といったい何が違うのでしょうか。
今回は、原子力機構のニュースをもとに発見された抽出方法の特徴や、期待される技術発展について深掘りします。原子力機構のリサイクル技術がどんな分野に役立つのか、詳しく見ていきましょう。
原子力機構が取り組むリサイクル技術とは?
原子力の研究開発機関「原子力機構」は、原子力の研究だけでなく、リチウムイオン電池や電子機器など、材料として使用された金属の再利用に関わる研究開発にも取り組んでいる組織です。
そして現在SDGsの考えをベースとし、資源のムダ使いなどを防止するために、レアメタルといった有用金属のリサイクルに関する研究開発がスタートしています。
リサイクル技術は、電子機器などに使われた金属の再利用を目的としており、環境対策や低コストで新たな製品を生み出すために重要な技術です。原子力機構のみならず、総合科学研究機構や代替エネルギー庁など、複数の機関と連携して共同研究を進めています。
またリサイクル技術は原子力機構だけでなく他分野で活用されています。
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原子力機構がリサイクル技術の研究を始めた背景
原子力機構がリサイクル技術の研究を始めた背景には、次の2つの要素が関わっています。
- SDGsとしての取り組み
- 原子力産業における再処理・放射性廃液処理の発展
今までは、一度使われた有用金属をそのまま処理するという「ムダ遣い」が世界中で起きていました。しかしその影響で、有用金属不足に伴う製造トラブルが起きやすくなったほか、品薄状態が続いた営業で、材料費の高騰が加速しました。
そこで原子力機構は持続可能な未来を目指すために、捨てられている電子機器等から有用金属だけを取り出すリサイクル技術「溶媒抽出法」に注目しました。
溶媒抽出法の研究が進めば、効率よく有用金属を抽出し、別の製品へと再利用できます。
また、溶媒抽出法は原子力産業でも次の目的で利用されている状況です。
原子力機構の目的 | 概要 |
原子力廃棄物の再処理 | 使用済み燃料からウランやプルトニウムを抽出して再利用する |
放射性廃液の処理 | 放射能レベルが高い廃液を溶かしたガラスと混合して安全に処理する |
原子力機構が利用する「原子力」は効率よく電力等を生み出せる一方で、生き物や地球環境に悪影響を出しやすい問題を抱えています。対して溶媒抽出法の研究が進めば、原子炉で使用される燃料の再処理や高レベルの放射性廃液処理の抽出技術を高度化が可能となるでしょう。
原子力機構が新たなリサイクル技術を発見
![発見された溶媒抽出法のイメージ](https://cad-kenkyujo.com/wp-content/uploads/2024/05/6b58aca2-5611-4577-953b-448ae4c28b6e.jpg)
原子力機構が他機関と共同研究しているリサイクル技術において、新たな技術進歩が生まれています。なかでも注目が集まっているのが金属のリサイクルに用いる「溶媒抽出法」と呼ばれる特定の金属を取り出す方法です。
溶媒抽出法とは、金属を液体に溶かして分離させる技術のことを指します。
製品製造等に用いられている有用金属(資源として利用価値のある金属)のリサイクルに利用されている技術です。
そして今回の原子力機構での研究では、溶媒抽出法の考え方を根本的に変える結果が生まれました。
従来の溶媒抽出法
溶媒抽出法ではもともと、抽出分離される金属の種類や量は、抽出剤と金属イオンの相性によって決まると考えられていました。
例えば、金属イオンを分離させやすい抽出剤がある解明されていたほか、抽出剤の濃度によって分離できる量が変化すると考えられています。よってこれまでに溶媒抽出法では、過去の事例や実験結果に基づいて、金属の分離が行われていました。
原子力機構が発見した新たな溶媒抽出法
原子力機構が発見した新たな溶媒抽出法では、従来の方法とは違い、抽出剤の組み合わせによってさらに金属を分離を調整できるということが発見されています。
例えば原子力機構の実験では、2種類の抽出剤を混合するパターンを2つ準備されました。
それぞれのパターンで溶媒抽出法を実施してみたところ、片方のパターンでは1つの金属しか分離できない一方で、もう1パターンでは2種類の金属を分離できたのです。
また、原子力機構が実施したX線・中性子線の分析によると、用いる溶媒の違いによって、分離対象物がもつ「超分子集合体(素結合や配位結合など相互作用によって構築される分子集合体)」の特性が変化していることがわかりました。
新たに発見された特性変化を活かすことで、今後リサイクル技術の発展や効率化に役立つのではないかと国や企業から期待が寄せられています。
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原子力機構の溶媒抽出法に期待されるポイント
原子力機構が発見した新たな溶媒抽出法が進展すれば、溶媒抽出の品質やコスト縮減、システム化が発展していくと期待されています。
期待されているポイントを詳しくまとめました。
溶媒抽出にかかる時間を短縮できる
原子力機構の溶媒抽出法が進展すれば、溶媒抽出にかかっている時間を短縮化できるかもしれないと期待が寄せられています。
まず従来の溶媒抽出では、1時間以内の抽出によって金属イオンを分離させていました。
しかし、分離したい金属イオンの種類が多い場合には、さらに溶媒に時間をかけなければなりません。
対して、原子力機構が発見した溶媒抽出法なら、抽出剤の組み合わせ方によって効率よく金属イオンを取り出せます。研究の中でも、2種類の金属イオンをまとめて分離できていることから、リサイクル技術の効率化に役立つのではないかと期待が集まっています。
低コストでの溶媒抽出が可能になる
原子力機構が発見した新しい溶媒抽出法を用いて、抽出時間を短縮できれば、その分だけ溶媒抽出にかかるコストを抑えやすくなります。特に期待されているのが次のコスト縮減効果です。
- 必要最小限の抽出剤で大量の金属イオンを分離できるようになる
- 溶媒抽出の仕組みの確定により人件費の削減につながる
時間・費用・手間といった複数のコストを抑えられるようになれば、原子力機構などが提供している原子力産業全体のコスト縮減および利益率増加が可能となります。
金属イオンを分離して環境対策ができることに併行し、ビジネスの面でも良い効果が生まれるのではないかと期待が寄せられています。
金属イオンの分離システムの設計に役立つ
原子力機構が発見した溶媒抽出法は、金属イオンの分離システムを設計する際に役立つと注目されています。
抽出剤の組み合わせによって分離できる金属イオンが変化することから、適切な量や品質、組み合わせ方を明確化すれば、溶媒抽出装置にも適用できるでしょう。
溶媒抽出装置と専用の抽出剤だけ準備できれば、原子力機構だけでなくどの施設でも同様の品質の金属イオンを分離できます。
有用金属は製造業において重要な素材であるため、溶媒抽出法の分離システムが確立することにより、多業種へ良い影響を生み出せると期待が寄せられています。
また、原子力機構の研究ではAIを活用した研究も実施されています。
もし自社でもAI人材を育成したいのなら、次のようなオンラインセミナーに参加してみるのはいかがでしょうか。
原子力機構のさらなる取り組み
原子力機構では、リサイクル技術である溶媒抽出法の研究だけでなく、他にもさまざまな取り組みを実施しています。原子力機構の動向を詳しく知りたい人向けに、現在実施中の取り組みとその概要を整理しました。
放射性廃棄物の地層処分
原子力機構は、使用済みの原子力廃棄物を安全に処分するため、地層処分の研究開発を実施しています。
原子力廃棄物は、人類そして世界中の生き物や環境に悪影響を及ぼす廃棄物であるため、生活環境から隔離処分しなければなりません。そこで研究が進められてるのが、地下深くにある固い岩盤層に放射性廃棄物を処分する方法です。
とはいえ、地殻活動や地下水といった要因によって、放射性廃棄物がいつ地上へ動いてしまうかわかりません。よって原子力機構では、地下水や火山活動、地層の動きを分析する仕組みを研究しています。
例えば地殻活動のメカニズムの解析や、地下深くに埋設施設を作成するほか、廃棄物のまわりを強固な素材で囲んで地盤に浸透しない処理方法の確立に力を入れている状況です。
核不拡散・核セキュリティ総合支援センターの運営
原子力機構は、核燃料の悪用を防止するため、次のような取り組みで世界に貢献している組織「核不拡散・核セキュリティ総合支援センター」を運営しています。
- 核物質管理の向上
- 国際的な核不拡散体制の強化
かつて日本に落とされた原爆といった核爆弾を世界に広げないこと、世界各国で実施されている紛争に利用させないことなどを目的として設立されました。
近年、世界中で発生しているテロ問題でも核の利用が懸念されていることから、世界各国の組織と協力して核セキュリティに力を入れています。
核廃棄物の埋設事業の展開
原子力機構は、次のような施設から生み出されている低放射性の廃棄物処分をサポートしています。
- 大学・研究所
- 医療機関
- 研究用原子炉
核廃棄物は原子力発電所だけでなく、医療機関のCTスキャンや研究機関などでも発生しており、人間や周囲の環境に悪影響を及ぼします。そこで原子力機構は、長年培ってきた核廃棄の知識・ノウハウを活かし、放射性物質の問題を必要最小限に抑えるために埋設事業を展開しています。
原子力機構が運営している専用の埋設施設への輸送はもちろん、埋設作業やメンテナンスにも対応しているのが特徴です。原子力機構による責任ある管理体制のもとで、安全に処分してもらえます。
原子力機構についてまとめ
原子力機構が発見した新たな溶媒抽出法は今後、核廃棄物を安全かつ効率よく処分するのに役立つほか、製造業における有用金属のリサイクルにも活用される魅力的な技術です。
また原子力機構はリサイクル技術の研究以外にも、核廃棄・処理に関わるさまざまな事業を展開しています。まだ発見されたばかりの溶媒抽出の仕組みですので、どのように活用されるのか、今後の動向から目が離せません。
![原子力機構のアイキャッチ](https://cad-kenkyujo.com/wp-content/uploads/2024/05/e94ea401e0eeb142e068cf30383b159d-375x245.jpg)