製造・建設業でのDX推進が急務となる中「どんなDX研修を社員に受けさせればいいのか」「そもそも研修で本当に社員のDX化につながるのか」と頭を抱える担当者は少なくありません。IPAの調査では国内企業の85.1%がDX推進人材の不足を認識しており、外部採用だけでは社員の育成を補えない状況が続いています。
本記事では、製造・建設業の社員育成にDX研修を取り入れるべき理由や習得させるべきスキル、研修の選び方から社員の育成事例まで解説します。
社員育成に最適|DX研修とは
DX研修とは、企業がDXを推進するために必要なデジタル知識と業務変革のスキルを社員に習得させる教育プログラムです。ここでは、社員育成に最適なDX研修のカリキュラム例や選び方について解説します。
DX研修のカリキュラム例
DX研修のカリキュラムは、受講する社員のレベルや目的に応じて構成が異なります。
| 研修カリキュラム例 | 研修の対象 | 研修の内容 |
| DXリテラシー基礎研修 | 全社員 | AI・IoT・クラウドなどの基礎知識を学び、デジタル化への抵抗感をなくす |
| データ活用・分析研修 | 現場担当社員 | 稼働データや工程データをBIツールで分析し、業務改善につなげる |
| DX企画・PM研修 | 管理職・推進担当社員 | PoCの計画策定から本番導入までのロードマップを描く力を養う |
| ノーコード・ローコード開発研修 | 現場担当社員 | プログラミング不要で業務改善アプリを自作するスキルを習得する |
製造・建設業では現場の職人や事務スタッフなど、ITに不慣れな社員も多いでしょう。まずリテラシー基礎研修から始め、段階的に専門性の高い研修へとステップアップする設計が効果的です。
DX研修の選び方

| 観点 | チェックポイント |
| 社員のレベル・適合性 | 自社のDX推進フェーズと、社員のスキルレベルに合った研修か |
| 業界特化性 | 製造・建設業の事例(IoT導入、スマートコンストラクションなど)が含まれている研修か |
| 受講形式の柔軟性 | シフト勤務や現場作業に対応したeラーニング・オンライン形式が選べる研修か |
DX研修で社員に習得させるべきスキル

製造・建設業においてDX研修を通じて社員に習得させるべきスキルは、大きく以下の領域に分類されます。
| スキル領域 | 概要 |
| IT・デジタル技術の基礎知識 |
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| データ分析・活用スキル |
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| 課題発見・解決力と変革マインド |
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社員育成において特に重要なのが、課題発見・解決力と変革マインドです。どれだけ高度なデジタル技術を学んでも、現場の課題を自ら発見し改善行動を起こせる社員が育たなければDX研修の効果は限定的になります。
社員育成にDX研修を取り入れるべき5つの理由

DX研修への投資は社員教育にとどまらず、企業の競争力や生存戦略に直結する取り組みです。製造・建設業がDX研修を社員育成に取り入れるべき理由として、以下5点を取り上げます。
- DX推進の遅れが「2025年の崖」問題につながる
- 国内企業の85.1%がDX推進人材の不足を認識している
- 社員研修により採用コストを抑えながらDXを内製化できる
- 業務理解のある社員が担うことでシステム開発・改善の精度が上がる
- 研修による全社員のDXリテラシー底上げで組織全体の変革速度が上がる
DX推進の遅れが「2025年の崖」問題につながる
経済産業省が発表した「DXレポート」では、老朽化・複雑化した既存の基幹システム(レガシーシステム)が刷新されないまま残存し続けた場合、最大年間12兆円の経済損失が生じる可能性があると警告されています。製造業の旧来の生産管理システムや、建設業で属人化した積算・原価管理システムは、まさにレガシー化のリスクを抱えやすい領域です。
DX研修を通じて社内のITリテラシーを引き上げ、古いシステムから脱却できる人材を育成することは、企業が経営リスクを回避するための防衛策でもあります。
出典:経済産業省|DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜
国内企業の85.1%がDX推進人材の不足を認識している
IPAの「DX動向2025」によると、国内企業の85.1%(「大幅に不足している」「やや不足している」の回答割合の合計)がDX推進人材の量的な不足を認識しており、人材不足がDX推進の最大のボトルネックとなっています。少子高齢化が進む製造・建設業では現場の人手不足に加え、ITに精通した人材の確保が特に困難な状況です。
労働市場全体でデジタル人材の獲得競争が激化している現在、中途採用だけでDX推進の担い手を確保しようとすることには限界があります。今いる社員をDX人材へと育て上げるリスキリングこそが、現実的かつ持続可能な解決策といえます。
出典:IPA|DX動向2025〜深刻化するDXを推進する人材不足と課題〜
社員研修により採用コストを抑えながらDXを内製化できる
即戦力のITエンジニアやデータサイエンティストを外部から採用しようとすれば、高額な採用コストと市場水準の給与が必要になります。また、採用に成功しても企業文化との相性が合わず早期離職するリスクも伴うでしょう。
一方、既存社員へのDX研修に投資すれば採用費用を大幅に抑えられるうえ、外部ベンダーへの丸投げをやめて自社内でシステム開発・運用を完結させる「内製化」も実現できます。長期的にはシステム外注費の削減という財務的なメリットにも直結します。
業務理解のある社員が担うことでシステム開発・改善の精度が上がる
製造・建設業の現場には、独自の専門用語や商習慣、長年培われた暗黙知が数多く存在します。外部のITエンジニアが短期間で把握するのは難しく「現場の実態と合わないシステムが納品された」という失敗事例は後を絶ちません。
自社業務を深く理解している社員がDX研修でテクノロジーの知識を身につければ「業務知識×ITスキル」の掛け合わせにより、現場のニーズを的確に反映した精度の高いシステム開発や業務改善が可能になります。
研修による全社員のDXリテラシー底上げで組織全体の変革速度が上がる
研修によるDXの推進は、情報システム部門や一部の推進チームだけで完結するものではありません。電子小黒板や図面共有クラウドなどのデジタルツールを導入しても、利用する現場の社員のリテラシーが低ければ現場の反発を招いて形骸化してしまいます。
全社員を対象とした階層別のDX研修を実施して組織全体のデジタル理解度を底上げすれば、新ツールの定着がスムーズになるだけでなく、現場からのボトムアップによる改善アイデアも生まれやすくなります。
DX研修を通じた社員育成の事例5選

ここでは、製造・建設業においてDX研修を通じた社員育成に取り組む企業の事例として、以下の5社を紹介します。
| 企業名 | 研修・取り組み名 | 特徴 |
| リコー | リコーデジタルアカデミー | 全社員対象の二層構造カリキュラム+リスキリング |
| 三菱電機 | DXイノベーションアカデミー | 社内外講座×産学連携による段階的育成 |
| コマツ | DX人材教育・AI人材教育 | 入門〜実践の一気通貫・全グループ必須化 |
| 清水建設 | シミズ・デジタル・アカデミー | 3コース体制+BIM・XRを活用した現場実践教育 |
| 鹿島建設 | デジタル人材育成体系(鹿島DXポータル) | 4段階の育成体系+現場直結のOCR・RPA研修 |
なお、おすすめのDX研修については以下で解説しているので、社員育成に最適なものを選ぶ際の参考にしてください。
リコー
リコーは2022年4月に「リコーデジタルアカデミー」を開校し、全社員向けのデジタルリテラシーと選抜社員向けのアップスキリングという二層構造でDX人材育成を推進しています。2024年度時点でデジタルスキル「レベル2以上」の社員育成というESG目標(4,000人)を1年前倒しで達成し、2025年12月時点の累計育成人数は5,470人に達しました。
「Benesse Reskilling Award 2025」の総合賞を2年ぶり2回目受賞するなど、社外からも高く評価されています。
出典:リコー|OAメーカーからデジタルサービスの会社への歩みについて
三菱電機
三菱電機は2025年4月に「DXイノベーションアカデミー」を設立し、2030年度までにグループ全体で2万人のDX人財確保を目標に掲げています。職務転換者や新入社員も含め、個々のスキルレベルに応じた幅広い研修の体系を整備している点が特徴です。
早稲田大学をはじめとする教育機関との産学連携も推進しており、社内外の講座を組み合わせた実践的な人材育成を実現しています。
出典:三菱電機|DX人財育成強化を目的とした「DXイノベーションアカデミー」を設立
コマツ
コマツは2019年度からAI人材教育、2022年度からDX人材教育を開始し、入門から選抜型の実践まで一気通貫の教育体系を構築しています。2024年度にはDX人材教育(入門)を全国内グループ社員への必須教育として展開し、累計受講社員数は22,074名に達しました。
生成AIの基礎と業務活用を学ぶe-Learningをグループ全体へ展開するなど、社員が継続的に学べる仕組みを整えています。
出典:コマツ|デジタル人材/オープンイノベーション推進人材の育成
清水建設
清水建設は2024年に「シミズ・デジタル・アカデミー」を開校し、DXプロデューサー・DXテクニカルプランナー・ITテクニカルプランナーの3コースで体系的な社員育成を進めています。中期経営計画(2024-2026)のKPIとして「DXコア人財120名・全部門配置」を掲げ、直近の公開実績では47名の社員が育成済みです。
BIMやXR技術を活用した「デジタルラーニングゾーン(DLZ)」での現場実践教育も取り入れており、建設業特有の知識とデジタルスキルを兼ね備えた社員の育成を目指しています。
出典:清水建設|人財育成
鹿島建設
鹿島建設はデジタル推進室が主導し「基礎→初級→上級→高度」の4段階からなるデジタル人材育成体系を構築・提供しています。研修で学んだOCRを現場に導入し、ミルシート集計業務を従来比約88%削減した社員の事例が生まれるなど、学びが実務改善に直結しました。
全講座は社内イントラネット「鹿島DXポータル」から申し込めるよう整備されており、現場社員が自律的にスキルアップできる環境が整っています。
DX研修での社員育成についてまとめ
DX研修は、製造・建設業が人材不足やレガシーシステムといった課題を乗り越えるための施策です。全社員のリテラシー底上げから専門人材の育成まで、階層別に設計された研修を継続的に実施することで、組織全体の変革速度は大きく加速します。
本記事の内容を参考に、自社のDX推進フェーズや社員のスキルレベルに合ったDX研修を選び、社員育成を通じた本格的なDX推進に取り組んでいきましょう。