製造・建設業におけるDX推進が急務となるなか「DX人材をどう育成すればいいのか」「社内に専任の担当者がいない」と悩む企業が増えています。デジタルツールを導入しても、現場で活用できるDX人材を育成できなければ、投資対効果は一向に高まりません。
本記事では、企業がDX人材育成に取り組むべき理由から具体的な育成の流れ、注意点、そして実際に成果を上げている企業の事例5選まで解説します。
企業におけるDX人材育成の必要性

製造・建設業において、DX人材の育成は企業の競争力を左右する経営上の最重要課題です。企業がDX人材を育成しなければならない主な理由として、以下の4点が挙げられます。
- 2030年に最大79万人のDX人材不足が見込まれるから
- グローバル競争でのデジタル人材不足が深刻化しているから
- 社内育成で企業独自のDX推進体制が構築できるから
- 「2025年の崖」による企業の経済損失リスクがあるから
2030年に最大79万人のDX人材不足が見込まれるから
経済産業省などの調査によると、企業におけるIT・デジタル分野の人材需給ギャップは年々拡大しており、2030年には最大79万人規模のDX人材が不足すると予測されています。外部市場からのDX人材採用・育成が困難になるなか、製造・建設業では現場特有の業務知識も求められるため、企業における採用のハードルはさらに高くなります。
将来的な人材不足リスクを回避するためには、既存社員へのリスキリングを通じた社内でのDX人材育成体制の構築が、企業にとって最も現実的な対策となるでしょう。
出典:経済産業省|DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~
グローバル競争でのデジタル人材不足が深刻化しているから
欧米や新興国の企業ではAIによる生産管理やBIM/CIMを活用した建設プロセスの効率化が急速に普及しており、デジタル人材育成への投資が国家レベルで進んでいます。グローバル競争で企業が優位性を保つには、世界基準のDX技術を使いこなせる人材を早急に育成しなければなりません。
企業全体のデジタルリテラシーを底上げするDX人材育成の取り組みを怠れば、国際競争力の低下に直結するリスクがあります。
社内育成で企業独自のDX推進体制が構築できるから
外部コンサルタント企業やベンダー企業への依存では自社固有の現場事情や暗黙知を十分に反映できず、導入したシステムが現場に定着しないリスクがあります。一方、自社の業務プロセスや現場課題を熟知した社員をDX人材として育成すれば、企業の実態に即した業務改善の立案・実行が可能です。
社内からのDX推進や人材育成は現場の共感を得やすく、企業独自の変革スピードと施策の定着率を大幅に向上させる点で大きな優位性を持ちます。
「2025年の崖」による企業の経済損失リスクがあるから
経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」とは、老朽化・複雑化したレガシーシステムが企業のDX推進の障壁となり、多大な経済損失を招くという問題です。多くの企業では、部門ごとに分断された旧来のシステムやアナログな管理手法が今なお残存しています。
社内にDX人材を育成・配置することで損失リスクを回避できるだけでなく、デジタルを活用した新たなビジネスモデルの創出へと、企業のリソースを転換させる原動力にもなります。
出典:経済産業省|DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~
【7ステップ】企業がDX人材育成を行う流れ
DX人材の育成は、デジタルスキルの研修を受けさせるだけでは成功しません。企業の経営戦略と連動した、体系的かつ段階的な人材育成プログラムの設計が不可欠です。
以下では、企業がDX人材を育成するための効果的な手順を7つのステップに分けて解説します。
- DX人材育成の目的と企業ビジョンを明確にする
- 必要なDX人材育成像とスキルを定義する
- DX人材育成対象者のスキルを可視化し選抜する
- 座学研修でDXスキルとマインドセットを習得させる
- OJTでDX人材の実践力を定着させる
- 社内外のネットワーク構築と人材育成の環境を整える
- DX人材の育成成果を評価・可視化してPDCAを回す
1.DX人材育成の目的と企業ビジョンを明確にする
DX人材育成の出発点は、自社がなぜDXに取り組むのか、目的と目指すべき企業ビジョンを明確に定めることです。
企業としてのビジョンが不明確なまま人材育成を進めると、対象人材は「何を学べば企業の役に立つのか」が分からず、モチベーションの低下や学習内容の形骸化を招きます。経営層が自らDXや人材育成の重要性を全社へ発信し、人材育成が企業変革に直結するプロジェクトであると周知することが重要です。
DX人材育成の目的設定に関しては、以下の記事も参考にしてください。
2.必要なDX人材育成像とスキルを定義する
企業のDXビジョンが固まったら、実現に向けて必要な人材像と育成に必要なスキルセットを具体的に定義します。IPA(情報処理推進機構)のモデルを参考にしつつ、自社の実情に合わせてDX人材育成の流れをカスタマイズしましょう。
役割ごとに求めるスキルを可視化すれば、無駄のない人材育成カリキュラムの策定と効果的な教育投資が実現します。
3.DX人材育成対象者のスキルを可視化し選抜する
企業として求めるDX人材像が定まったら、社内人材のスキルレベルや適性をアセスメントし、育成対象者を選抜します。現状のDXスキルの高さだけで判断するのではなく、企業目線での課題意識や探究心、周囲を巻き込む力なども含めた総合的な評価が重要です。
部門や年齢にとらわれない幅広い層からの人材育成が、DX推進の成功率を高めるポイントです。
4.座学研修でDXスキルとマインドセットを習得させる
選抜されたDX人材候補に対しては、AI・IoT・クラウドといったデジタル技術の基礎知識から、デザイン思考やアジャイル開発の手法まで幅広い手段を通じて育成します。スキル面での育成と同様に重要なのが、失敗を恐れず変革に挑む「DX推進マインドセット」の醸成です。
外部専門企業によるハンズオン型のワークショップを積極的に活用し「自社の業務をデジタルでどう変えられるか」を常に考えさせる実践的なインプットが、人材育成後の推進力を大きく左右します。
DX研修に関する詳細は、以下記事をご覧ください。
5.OJTでDX人材の実践力を定着させる
人材育成のプログラムで得た知識を現場で発揮できる実践力へと高めるには、OJT(職場内訓練)が欠かせません。最初から大規模なプロジェクトを任せるのではなく、ノーコード・ローコードツールを用いた業務効率化アプリの作成や、データ集計の自動化といったスモールスタートの案件から育成観点での経験を積ませます。
企業での歩留まりデータの可視化や建設現場における日報のデジタル化など、成果が見えやすい領域で成功体験を重ねることが、DX人材育成の成功に直結します。
6.社内外のネットワーク構築と人材育成の環境を整える
企業ではDX技術のトレンドは急速に変化するため、一度の育成で完結させず、継続的に学習できる環境の整備が求められます。企業内ではDX人材同士が成功・失敗事例を共有できるコミュニティや社内SNSを設け、部門を超えた連携と企業全体のDX推進意識を高める場を作ることが育成のポイントです。
企業内はもちろん、社外コミュニティやハッカソンへの参加を通じて外部の知見を取り込み、自律的に学び続ける人材と組織文化を根付かせることが、長期的なDX人材育成の成功につながります。
7.DX人材の育成成果を評価・可視化してPDCAを回す
DX人材育成の取り組みは、定期的に成果を評価・可視化し、育成プログラム自体を改善するPDCAサイクルを回すことが重要です。受講率や理解度テストといったプロセス指標だけでなく、業務時間の削減やデジタルツールの定着率など、企業としての成果に直結する指標も併せて設定します。
育成対象者の成長度合いを人事評価や報酬に適切に反映することで、DX人材のモチベーションを維持しながら、企業全体の育成の質を継続的に高めていけるでしょう。
企業におけるDX人材育成の注意点5つ

企業がDX人材の育成を成功させるには教育プログラムの提供だけでなく、企業全体の受け入れ態勢や進め方にも細心の注意が必要です。DX人材育成への投資が形骸化しないよう、企業として押さえておくべき注意点を以下の5つにまとめました。
- DX人材育成を目的化しない
- スモールスタートで段階的に進める
- 人材育成の進捗と成果を企業全体で共有する
- 経営層が主導して企業内の人材育成体制を整える
- DX人材育成の成果を実践できる場を意図的に設ける
DX人材育成を目的化しない
多くの企業が陥りがちな失敗としで、「DX人材を〇〇人育成する」こと自体がゴールになってしまうケースが挙げられます。人材育成はあくまで経営課題を解決し、企業を成長させるための手段に過ぎません。
人材育成プログラムが企業のビジネス目標に直結しているかを常に問い直す姿勢が、人材育成の目的化を防ぐうえで不可欠となります。
スモールスタートで段階的に進める
育成したDX人材を実務にアサインする際、経験が浅い段階から大規模なシステム刷新や高難度のAIプロジェクトを任せるのは避けるべきです。過大な目標はプレッシャーや関係各所との調整疲れを招き、育成途中での挫折リスクを高めるので企業にとってもデメリットです。
- 特定の建設現場における紙の安全点検表をタブレット入力へ切り替える
- 一つの生産ラインの稼働状況をダッシュボード化する
上記のような成功体験を積み重ねることが、企業が把握すべきDX人材育成におけるポイントです。
育成の進捗と成果を企業全体で共有する
DX人材の育成は、特定の部署やプロジェクトチーム内だけで完結させてはなりません。人材育成の進捗や現場で生まれた業務効率化の成果を定期的に全社へ共有し、可視化する仕組みが必要です。
具体的な人材育成の成功事例を社内で積極的にアピールすることが、他部署からの理解と協力を引き出す有効な手段となります。
経営層が主導して企業内の人材育成体制を整える
DX推進と人材育成は、現場や人事部門だけに委ねていては成功しません。経営層が率先してリーダーシップを発揮し、育成対象の人材が学習や新プロジェクトに専念できる環境を物理的・制度的に整えることが必須です。
通常業務の負担軽減や必要な開発環境の予算承認など、企業トップが迅速に動く姿勢を示すことで組織全体にDX人材育成への本気度が伝わり、人材育成を通じた変革のスピードが大きく加速します。
DX人材育成の成果を実践できる場を意図的に設ける
高度なデジタル知識を習得しても、現場でアウトプットできる機会がなければ育成への投資は無駄になります。企業は育成したDX人材がスキルを発揮できる実践の場を、意図的かつ戦略的に用意しなければなりません。
各事業部から業務課題を募ってDX人材チームが解決する社内コンペなど、学んだスキルをすぐに試せる育成環境の整備が育成の効果を最大化します。
DX人材育成に成功した企業の事例5選

人材育成のアプローチや注力領域は企業ごとに異なるため、自社のDX推進の参考として複数の事例を比較することが重要です。以下では、DX人材育成に成功した企業の事例をまとめたうえで、詳細を解説します。
| 企業名 | 人材育成アプローチ | 人材育成の成果・特徴 |
| ダイキン工業株式会社 | 社内大学「DICT」によるAI・データサイエンス人材の育成 | 新入社員を2年間専任でDX教育に充てる本格投資 |
| 株式会社リコー | 「リコーデジタルアカデミー」による全社員参加型人材育成 | 2026年までに6,000名超のデジタル人材育成を見込む |
| 清水建設株式会社 | BIM・AR技術を活用した現場技術者向け人材育成 | 巡回確認作業を従来の4時間から30分に短縮 |
| 鹿島建設株式会社 | 自動制御システム「A4CSEL」運用人材の専用育成トレーニング | 大規模現場での生産性を従来比約2倍に向上 |
| 株式会社竹中土木 | AR・ICT建機活用を前提とした人材育成 | 地下埋設物リスクの低減と高精度施工を実現 |
ダイキン工業
空調機メーカーの世界的大手であるダイキン工業株式会社は、社内に「ダイキン情報技術大学(DICT)」を設立し、全社的なDX・AI人材の育成に注力しています。技術職の新入社員のなかから選抜された人材は、入社後2年間を通常業務から離れてDICTでのAI・データサイエンス研修に専念できます。
また、選抜社員向けの高度な専門講座に加え、企業全体のデジタルリテラシー底上げを目的とした「AI活用講座」を通じた人材育成を実施しているのも特徴です。自社のものづくり知識と最先端AI技術を兼ね備えたDX人材を大量に育成することで、スマートファクトリー化を力強く推進しています。
参照:デジタル時代における製造業の変革~ダイキン情報技術大学(DICT)、社内大学で学んだ優秀な新人を出向させる“ダイキン流データ活用
株式会社リコー
光学機器や複合機の製造を手掛ける株式会社リコーは、2022年4月に企業内育成プラットフォーム「リコーデジタルアカデミー」を設立し、全社員参加型のDX人材育成を推進しています。2026年までに6,000名超のデジタル人材育成を見込み、現場の業務プロセスを熟知した社員が自らDXを推進する「現場発DX」を重視している点が特徴です。
社員自らが開発した企業内ナレッジAI回答アプリが全社的なプロセス変革の好循環を生み出しており、製造業における人材育成・リスキリングのモデルケースとなっています。
参照:リコーデジタルアカデミーを設立し、デジタル人材の育成を加速
清水建設株式会社
大手ゼネコンの清水建設株式会社は、設計・施工から維持管理までを一元化する独自のデジタルプラットフォーム「Shimz One BIM」の運用を支えるため、現場技術者へのBIM活用育成を徹底しています。AR技術でBIMデータと実際の現場映像を重ね合わせて確認するツール「Shimz AR Eye」や、配筋検査を効率化するシステムも自社開発しています。
現場の人材が最新技術を当たり前に使いこなせるレベルまで人材育成を施すことで、従来4時間を要していた巡回確認作業を30分に短縮するなど、DX人材育成が現場の作業負担を劇的に軽減する成果に直結している事例です。
参照:清水建設 コーポレートレポート2022(Shimz One BIM推進に関する記載)、攻めのIT経営銘柄(BIM人材育成施策に関する公式資料)
鹿島建設株式会社
鹿島建設株式会社は、複数の建設機械を連携させて自動制御するシステム「A4CSEL(クワッドアクセル)」の導入により、1人の管理者が複数台の重機を同時に制御できる新しい現場オペレーションを確立しています。高度なシステムを安全かつ正確に運用できるDX人材育成のための専用トレーニングを実施しており、人材育成と技術導入を一体で推進している点が特徴です。
ダム工事などの大規模現場において生産性を従来比約2倍に高めることに成功しており、デジタル技術と人間の新しい協働スタイルを体現した先進的な企業事例となっています。
参照:鹿島統合報告書(価値創造基盤・人材育成に関する記載)、放射性廃棄物処分に関する技術ページ(A4CSELと人材育成の関連記載)
株式会社竹中土木
株式会社竹中土木は作業員の安全性向上と省人化を両立させるため、AR技術やICT建設機械の導入を積極的に進めています。CADデータをARで実際の地面に投影するシステムにより、作業員が地下埋設管の位置を直感的に把握しながら安全に掘削作業を行える環境を実現しました。
デジタル技術を現場の「当たり前の道具」として扱えるDX人材育成が、過酷な現場環境の改善と高精度施工の実現につながっています。
参照:竹中土木コーポレートレポート(ICT施工の中核を担う人材育成に関する記載)
DX人材を育成したい企業におすすめプログラム

GETT ProSkillが提供するDX研修は、レベル別のカリキュラムと定額受け放題プランを軸にした、DX人材育成に最適なプログラムです。DXレベルチェックテストによるスキルの可視化から、ハンズオン実習やワークショップを通じた実践力の習得まで、社員一人ひとりのレベルに応じて人材育成ができる構成となっています。
人材育成等を目的とした助成金の活用にも対応しているため、現場人員の確保が優先されがちな製造・建設企業でも、コストを抑えながら全社規模でのDX人材育成を無理なく実現できます。
企業向けDX人材育成のまとめ
DX人材育成は、企業が深刻な人材不足やグローバル競争を乗り越え、持続的な成長を実現するための重要な経営投資です。人材育成自体を目的化せず、企業ビジョンと連動した体系的なプログラムを設計・実行することが成功のポイントとなります。
本記事で紹介した人材育成のステップや企業事例を参考に、自社の現場課題に即したDX人材育成の取り組みを前向きに検討してみてください。