東京都渋谷区にある「FabCafe Tokyo」は、2012年3月にオープンしたデジタル工作機器を備えたものづくりカフェです。現在では東京、台北、バルセロナ、バンコク、など世界の9拠点で運営されています。
今回は、このFabCafeを立ち上げた、ロフトワークの川井敏昌氏にFabCafeの設立経緯やコンセプト、ものづくりの今後についてお伺いしました。
一般の方にものづくりの技術を発信するためFabCafeをオープン
-:まず、ロフトワークとはどんな会社なのかを教えて下さい。
川井:ロフトワークは2000年に創業した会社で、Webサイトの設計などのデジタルコンテンツの制作を主に行っています。普通のWebサイトの制作会社は、会社の中にエンジニアやデザイナーがいるのですが、ロフトワークは創業時からディレクターしかいないので、外の方とコラボレーションをしてものづくりをしてきました。 FabCafeも今はグローバルに9拠点で展開していますが、ロフトワークもそれに準じて、今台湾に支社があり、今度香港にも設立を予定しています。
-:今、話に出ましたFabCafeですが、メイカースペースとしてはかなり早い段階にできていましたよね。
川井:2010年にFabLabができたのですが、実はFabCafeのコンセプトは、当時FabLabのメンバーだった岩岡ともう1名が、東京デザインウィークで最初に発表したんです。そのアイデアをロフトワークに提案する形で、FabCafeが誕生しました。
-:今でこそ、FabCafeを参考にしたメイカースペースが増えていますが、FabLabとFabCafeの違いは何でしょうか?
川井:FabLabは、僕らがFabCafeを立ち上げる時、ワールドワイドではかなりの数ができていました。ですが、FabLabは、大学に属しているとか、地方自治体や国の助成金をベースに運営されているものがほとんどで継続性が課題になっていたのです。FabCafeは、扱う技術は同じですが、アカデミック向けではなく、一般の方に向けて発信していくということや僕ら自身が収益化のモデルを作ることで、FabLabや他のメイカースペースの存続の実証実験にならないかという思いでスタートしているのです。
FabCafe Tokyoの2階はFabCafe MTRLと名付けられた素材(マテリアル)がテーマのコワーキングスペースになっている
FabCafeとそれに紐付くコミュニティがビジネスになるまで
-:FabCafeを運営されて5年が過ぎましたが、これまでの道のりはいかがでしたか?
川井:FabCafeを立ち上げた時は、みんな手探り状態でした。カフェとものづくりスペースを一緒にするというコンセプトはあるんですけど、それで収益が上がるのかというのも不透明でしたので。ですが、来た人に対しては、ものづくりの楽しさを伝えることができ、さらに、カフェの美味しさも伝わるようにしたいという気持ちがあり、Fabとカフェを100:100くらいの形でやりたいと思っていたのです。
そして1号店の台湾を筆頭に、FabCafeはグローバルブランドとして広がっていくことに成功はしましたが、やはり収益には苦労しました。カフェは席数×回転数で稼ぐことができますが、FabCafeに来る人は、少なくとも3時間、長い人だと1日中いたりするので、回転数が悪いのです。Fabについても、レーザーカッターや3Dプリンターなどの工作機器の台数も限られているので、最初から収益の限界が見えている中でビジネスを作っていかなきゃいけなかったのが大変でした。
今年でFabCafeは6年目に入りましたが、場所としてのFabCafeだけでなく、そこに紐付くコミュニティに対して、興味を持ってくれる会社がでてきたことで、僕らもそこに対するビジネスができるようになったわけです。
FabCafe Tokyoの外観。お洒落な雰囲気だ
ワークショップは、ものづくりを始めるきっかけに
-:FabCafeではワークショップをよく開催されていますよね。Fusion 360講座もありますし、レーザーカッター入門とか。
川井:僕らがやっているワークショップやイベントは、新しいモノをいち早く体験してもらうためにやっています。新しい機器と、こういうアイデアを組み合わせると、こんな面白いことができるとか、そういうプロトタイピングをベースにやっています。
気軽にきていただいて、それをきっかけにものづくりを始めてもらったり、FabCafeのことを知ってもらえればそれでいいと思っているんです。
FabCafe Tokyoの中には、3Dプリンターやレーザーカッター、UVプリンターなどが置かれている
毎月の新メニュー作りはイベント
-:カフェの飲み物や食べ物もお客様からの評価も高そうですね。
川井:FabCafeでは、メニューを新しく作ること自体がイベントだと考えていて、毎月新しいものを出すようにしています。FabCafeに来ると毎回違うものが食べられるよね、という形で人を惹きつけるようにしているのです。
-:以前、バレンタインデーとかホワイトデーにあわせて、3Dスキャンと3Dプリンターを使ってチョコ作りをやっていましたよね。
川井:チョコレートの3Dプリントはとても人気があって、いまだに海外からも問い合わせがきます。これはチョコ作りを考案したケイズデザインラボの原さんのおかげといっても過言ではないんですが、それでFabCafeがグローバルに認知されました。
川井氏はバリスタでもあり、ドリンクやフードのメニューづくりも手がけている
感性でのものづくり、ロジカルなものづくりどちらにも対応するFusion 360
-:FabCafeで行われている3D CADのワークショップはFusion 360が多いと思いますが、Fusion 360を選ばれた理由は何でしょうか?
川井:誰でも使える、というのが一番ですね。とにかく使いやすくて、個人なら無料というところや、サーフェスとソリッドと両方扱えるのも魅力的ですね。感性でものづくりしたい人と、ロジカルにものづくりしたい人って結構分かれるんですけど、それがこれまではCGソフトと、CADソフトっていうように分かれていたのが、どちらの人でもFusion 360なら大丈夫っていうところが、すごく強いと思います。
今後はCNCを導入して家具やカウンターを一緒に作りたい
-:今後のFabCafeの展開について教えて下さい。
川井:新しいことでいうと、FabCafeの5周年を記念して、今後はよりFabCafeを実験場化していこうというプロジェクトがあります。FabCafeで使っている家具は、今は市販品を使っているのですが、適材適所で、一から作るモノもあれば、市販品を改造したモノもあったりしたらいいかなと思い、FabCafeの中の家具やカウンターを、リビルドするプロジェクトを立ち上げています。それをFusion 360のCAM機能を使って作ろうと思っています。大型のCNCをこれから導入するので、それを使ってモノを作るということをやりたいですね。
-:3Dプリンターは結構普及してきましたが、CNCは騒音や切削屑などの問題もあってなかなか個人で所有するのが難しいところもありますよね。
川井:家で使える棚とか椅子とかが欲しいってなった時に、3Dプリンターではまだまだ強度とかで難しい部分も多いのですが、CNCがあれば選択肢が広がります。僕らは今回、海外製のCNCを導入する予定なのですが、そのハードウェア自体の情報をオープンにシェアして、組み立てるところから一緒にやるようなコミュニティを作ろうと思っています。
クリエイティブワークを目指すなら自分のコミュニティを持つことが重要
-:今後、ものづくりの環境はどうなっていくのでしょうか? またそれに対して、どういう心構えでいればいいのでしょうか?
川井:僕らは、FabCafeを通じて、ものづくりのプロトタイピングをもっと気軽に、もっと簡単に形にして検証することを推進しています。これまではそれを、デザイナーが行うことが多かったんですが、今後は企業の中でも職種を問わず、プロトタイピングができるスキルが求められるようになると思います。企画の人が自分でレーザーカッターなどで形を作って、こういうところに置いてみたらどうかとか、デザイナーの目の前に実際に作ったモノを置いて話をするといったことで、企画者の意図を最終製品までしっかりと込め、開発速度が上がったりすると思います。
ただ、どうしてもハードウェアスタートアップはリスクが大きすぎるのとコストがかかりすぎるというのがあるので、ものを作るんだったら、海外のクラウドファンディングを使って海外で作ったほうが安いと思います。ですが、その技術の下支えをこれまで行ってきたのは日本だと思っています。ですので、こういったFusion 360みたいなデジタルツールを使いながら、デザインしているものを実物にする時に、どういう技術が必要なのかということをしっかり学んで、それをいかに、海外や生産拠点にフィードバックしていくのかが必要になってくると思います。
-:最後に、広くクリエイティブワークを目指す人達に向けてのアドバイスをお願いします。
川井:重要なのは、自分のコミュニティをいかに立ち上げられるかですね。今後、会社や組織に属していく時に、その会社の人とだけ繋がるのではなくて、外の方と繋がることが大切になってきます。最初はどこかのコミュニティに参加してもいいのですが、自分の興味あるものに対してコミュニティを立ち上げて、それを少しずつ大きくしていくことが、自分の資産になっていきます。FabCafeはまさにそれをビジネスとしてやってきていますが、それが僕自身やスタッフのコミュニティにもなっていたりします。そうしたコミュニティ自体の魅力が、その人自身の知識やネットワークの広がりに繋がってくると思うので、いろんな人達とコミュニティを通じて、繋がり合うことを早めに始めるといいと思います。