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東京デザイナーズウィーク学生グランプリ受賞の「かなころ」が示す3Dフォントの可能性

Fusion 360の活用事例を紹介するこちらのコーナー。第9回目は、3Dプリンターを活用した3Dフォント「かなころ」を製作した溝部洋平氏にお話を伺いました。

かなころは、日常への宣戦布告というテーマから生まれた

西村拓紀デザイン株式会社でデザイナーを務める溝部洋平氏は、九州大学芸術工学部在籍中に、球にひらがなを投影した3Dフォント「かなころ」を製作し、東京デザイナーズウィーク2014のASIA AWARDS 学校作品展・学生展に出品。見事、グランプリに輝きました。かなころは、3Dプリンターを活用して作られ、3Dフォントの新たな可能性を示すものとして注目されました。そこでまず、溝部氏にかなころ誕生の経緯をお聞きしました。

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かなころで一番お気に入りだという「を」を手にする溝部洋平氏

「僕が在籍していた九州大学芸術工学部は、工学と芸術どちらも学んで、良い製品をつくりましょうというのが目的の学部です。そこで僕はプロダクトデザインだけではなく、空間デザインなど、幅広く勉強してきました。また、サークル活動や自主活動が推奨されている学校なので、製作系サークルに入っていろんなことを学んでいました。かなころは、まさにそうした自主活動の1つで、東京デザイナーズウィークに出品しようということになり、作品ごとのチームリーダーの1人として作品を製作することになりました。」(溝部氏)

東京デザイナーズウィークのASIA AWARDS 学校作品展・学生展では、毎年テーマが設定されていますが、溝部氏らが出品を決めた2014年度のテーマは「アバンギャルド」でした。アバンギャルドとは、新しい概念や先駆的な表現を試みるということですが、溝部氏らは、「日常への宣戦布告」と定義しました。

「僕らの中では、アバンギャルドを『日常への宣戦布告』と定義し、普段ある日常に疑問を持ってみるテーマで進めていくことになりました。そのときに僕は、日常的なものがみんなが見たことないようなものになればすごく面白いだろうなと思って、文字を違うように見せたら面白いかなといろいろ試行錯誤した結果、案の1つとして『かなころ』が出てきました。」(溝部氏)

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溝部氏が考案した3Dフォント「かなころ」。球にひらがなを投影し、3Dプリンターで作られている。見る角度によって表情が大きく変わる

当初は3Dプリンターの扱いに苦労した

かなころのアイデアを思いついた溝部氏ですが、それを実際に3Dプリンターで形にするのは苦労したと言います。その苦労について語っていただきました。

「まず、そのときはまだ3Dプリンターというものを全然使ったことがなかったんですね。たまたま、この西村拓紀デザイン株式会社でインターンをした時に、3Dプリンターについて学んで、3Dプリンターだったら何でもできるなと感じました。その時に得たノウハウで、2週間くらいかけて文字を立体化することをやりました。当時は、隣にあるReplicator 2Xを使いましたが、2Xだといろいろ大変なんですよね。キャリブレーションを何回もしなおしたり、サポート材だらけだし、失敗もするしということで、作るのに1つ3、4時間くらいかかりました。50音全部作るとなると200時間くらいかかりますし。そのあと、研磨作業をして、塗装もしたので、大変でしたね。僕1人では絶対に作れませんでした。チームの皆が夜中まで削ってくれたおかげです。その後フォリサローネに持っていくために作り直したときも皆に削ってもらえて本当に感謝しています。」(溝部氏)

東京デザイナーズウィークに出品するということで、締めきりもあり、かなころの最初のバージョンは、1週間でモデリングを終え、その後2週間でひたすら出力をして完成したとのことです。

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左が旧モデルの「Raplicator 2X」。奥が最新モデルの「Raplicator 5th Generation」

Fusion 360のスカルプトモードはとても便利です

かなころのモデリングには、Fusion 360とライノセラスを併用したそうです。かなころは東京デザイナーズウィークで見事グランプリを獲得し、かなりの反響となりました。実は、東京デザイナーズウィークに出展後、モデリングをやり直して、現在のかなころはバージョン2になっているそうです。また溝部氏は、かなころ以外の製作でも、Fusion 360を活用してきました。

「大学在籍中は個人製作として、3Dプリンターを使っていろいろやっていました。その時に、『つくると!』というイベントがあって、Fusion 360を使って、ソニーのMESHを内蔵した起き上がりこぼしを作っていました。揺らすと光の色が変わったりとか、そういう感じのものですね。それは、僕ともう1人の女の子でチームを組んでやりましたが、Fusion 360はデータの共有が楽にできるので便利でした。Fusion 360では、スカルプトモードがすごく便利なんですよね。あのスピードフォームは。もちろんライノセラスのプラグインでもできますが、あれが標準で使えるというのはかなりいいですよね。あれがあるかないかで造形の幅が変わりますし、とにかく早く作れます。最近は、メッシュデータをも扱えるようになったとか。Fusion 360のずるいところは、他のオートデスク製品の機能を全て詰め込んでいるところですよね。普通そんなことを他社はしないと思いますが、メッシュミキサーの機能も、エイリアスのスピードフォームも入っていて、本当に便利です。」(溝部氏)

また、Fusion 360に最近搭載されたPrint Studioの3Dプリンター用サポート材生成機能も、とても気に入っているとのことです。

「Fusion 360のPrint Studioには本当に助けられています。これはもともとMeshMixerの機能なんですが、樹形のサポート材を作ることができるんですね。3Dプリンター標準でサポート材を付けると、サポート材がべったりついて、跡が汚くなってしまうのですが、これだと手でサポート材を除去しても跡がほとんど残らないんですよ。バージョン2はこの機能を使って出力したので、手間が大きく省けました。」(溝部氏)

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Replicator 5th Generationを使って、かなころを出力している様子。サポート材は、Fusion 360のプリントスタジオによって生成されたもの

かなころモチーフのアクセサリーが商品化予定

溝部氏にとっては、かなころはすでに終了したプロジェクトという位置付けとのことですが、かなころの優れたデザイン性を活かしてアクセサリーとして商品化する話が進んでいるそうです。

「かなころのデータを公開することも考えています。非営利目的であればどうぞ使ってくださいという感じですね。それとは別に、どうしてもかなころを使ってアクセサリーを作りたいという話が来たので、話を聞いてみると、いい感じのアクセサリーになりそうですし、ブランドイメージとも合っていたので、それならいいですということで、お金は一切受け取らずにアクセサリーの商品化を進めています。それは今、大阪のほうで進んでいて、実際に試作はできていて、あとは売り出すだけという状態になっていますね。」(溝部氏)

達人の作品を見ることはとても勉強になります

溝部氏にFusion 360の上達の秘訣を聞いてみました。それは、達人が公開している作品のデータを見ることだそうです。履歴が全て保存されており、自由に戻って修正できることもFusion 360の利点ですが、その履歴機能を活用することで、上手なモデリングの方法や手順を学ぶことができます。

「Fusion 360のエバンジェリストの藤村さんが作ったデータを公開していますが、それは履歴が全部見れるんですよね(笑)。ですから、『こうやって作っているのか、なるほど』とか。そのテクニックの分析はかなり楽しいですね。すごく勉強になります。」(溝部氏)

3Dをやるなら、いろんなソフトを使ってほしい

最後に、3Dでものづくりを始めたいと思っている学生へのアドバイスをいただきました。

「特定のソフトに縛られたような生き方はしてほしくないんですよね。僕も大学一年生のときIllustratorを先輩から教えてもらって、Illustratorばかり使っていました。そのときPhotoshopはあまり使いませんでした。ソフトが違うので当然なのですが、Illustratorだけだと限界を感じPhotoshopを使ってみたら、すごくいいじゃんって(笑)。その時にソフトによって得意、不得意があることに気付きました。3D系ソフトもそうで、いろんなものを使ってやってみると、本当に発想力が広がります。だから、いろんなソフトを触ってほしいと思います。学生の時は、僕もあまりお金をかけたくないので、無料のものをどんどん調べて、体験版もたくさんやりました。学生はそれでいいと思うんですよ。別に製品を売ることを目的としていないので。ソフトは道具なんですけれど、道具は楽しんで使ったほうがいいと思います。Fusion 360はなんでもできるソフトですが、その中でも気に入った部分を他のいろんなソフトと連携して使える、すごく相性がよいソフトだと思います。」(溝部氏)

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