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コイン形電池を増産する狙いとは?投資拡大の背景や蓄電池技術の最新動向を解説

電池や磁気テープ、光学部品といった製品の製造・販売を提供するマクセル株式会社が、タイヤ空気圧監視システムの電顕として利用するコイン形電池の増産を発表しました。なぜ、コイン形電池の増産が必要なのでしょうか。

今回は、コイン形電池のニュースをもとに、製品の性能や増産の背景、増産の狙いについて深掘りします。自動車生産における新たな変化を知る参考にしてみてください。

マクセル株式会社がコイン形電池の増産を決定

電池といった蓄電池の製造・販売事業を提供しているマクセルが、自動車に搭載されるタイヤ空気圧監視システムのセンサーを動かす電源として、耐熱性に優れるコイン形電池の増産を決定しました。

1960年から電池の製造・販売を提供しているマクセル株式会社は、国内だけでなく次のような地方にも電池の製造・販売拠点を構え、小型リチウム電池市場の多くを占めている大手製造企業です。

  • アメリカ
  • ヨーロッパ
  • アジア

マクセル株式会社の発表によると、従来のコイン形電池の生産体制を従来の1.5倍まで引き上げ、今後の需要動向に合わせて提供を進めていく見通しを立てています。

コイン形電池における増産の投資状況

コイン形電池の投資状況

マクセル株式会社は、タイヤ空気圧監視システムに利用されるセンサー用電源の需要が増えることを見越し、兵庫県小野市にある既設工場ラインに改良を加えました。

これまでマクセル株式会社は、大小さまざまなコイン形電池の製造に対応していましたが、今回の増産に伴い、車載用の電源としてのニーズが強まっている直径20mm×高さ3.2mmのコイン形電池の生産ラインを整備し、重点的な製造スタイルを確立しています。

コイン形電池の増産に伴う投資額は約5億円であり、今後、需要の増加に合わせてさらなる投資を行う予定があると発表されています。

マクセル株式会社で製造されているコイン形電池の種類

今回、マクセル株式会社のコイン形電池を増産する計画では、直径20mm×高さ3.2mmの電池を対象に増産をスタートしますが、ほかの工場では並行して大小さまざまなコイン電池の製造が続けられます。参考として、製造されているコイン形電池の種類を整理しました。

素材 コイン形電池の用途 サイズ(直径×高さ)
酸化銀 時計用ハイレートタイプ 6.8×2.15~11.6×5.4
時計用ロ ー レ ー トタイプ 4.8×1.65 ×11.6×5.4
一般用ボタン形 7.9×3.6~11.6×5.4
アルカリ 一般用ボタン形 7.9×3.6 ~11.6×5.4
リチウム 一般用コイン形 12.5×1.6 ~20.0×3.2
カメラ用円筒形 15.6×27.0 ~45×34×17

今回のセンサー用電源として利用されるのは、リチウム素材の一般用コイン形です。
製造された電池はそれぞれ、日本、アメリカ、ヨーロッパ、アジアで販売されています。

マクセル株式会社が製造・販売するコイン形電池とは?

コイン型電池の概要
出典:コイン形電池「マクセル株式会社」

マクセル株式会社が車載用の電源として製造しているコイン形電池は、耐熱性に優れた自動車内部に導入しやすい製品です。二酸化マンガンとリチウムを利用した電池であり、高い蓄電量と少ない消費電力で製品を稼働できます。

顧客の要望に合わせて複数のコイン形電池が製造されており、導入する機器に合わせて好きなコイン形電池を選べるのが特徴です。

コイン形電池を搭載するタイヤ空気圧監視システムとは?

マクセル株式会社が搭載の見通しを立てているタイヤ空気圧監視システムとは、タイヤ内の空気圧や温度をリアルタイムで測定し、運転席に情報を送信するシステムのことです。

タイヤ空気圧監視システムがあれば、専門知識がなければ気づくことが難しいタイヤの空気圧の知識をもたない運転手でもすぐに判断できます。また、タイヤに異常が発生して空気が抜けたときには、即座に問題を検知して走行中の自動車を停止できるのが特徴です。

自動車の事故防止として当システムの活用が推進されていることから、マクセル株式会社は以下の製造状況やニーズを読み取り、コイン形電池製造の投資を始めています。

欧米を含む海外ではTPMSの装着義務化が進む。自動運転の実用化に伴いTPMSへの需要が一段と高まると予想されることから、マクセルは市場の拡大をにらみ投資を判断した。

引用:ニュースイッチ「生産能力1.5倍…マクセルが車載コイン形電池を増産する狙い」

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コイン形電池を増産する背景

コイン形電池増産の背景

マクセル株式会社がコイン形電池の増産を急ぐ背景には、自動車産業の発展が関係しています。
参考として、コイン形電池の増産が必要になった理由を詳しく整理しました。

自動車産業のトレンドへの対応

自動車産業では、省エネかつ運転の手間がかからない自動車の生産に力を入れており、自動車産業のトレンドを表す「CASE」の潮流に乗るため、次のような技術発展に対応できるよう、機器に導入するコイン形電池の増産を始めました。

自動車産業のトレンド 概要
コネクテッド(C) インターネット接続に伴う自動車のIoT化の技術であり、IoT機器の電源としてコイン形電池を導入する
自動運転(A) 人の判断を必要とせずに運転できる技術のことであり、内部機器の電源としてコイン形電池を適用する
シェアリング(S) ひとつの車体を複数人で利用する仕組みであり、自動車共有に伴うカード認証のシステムなどにコイン形電池を活用する
電動化(E) ガソリンを使用しない自動車を製造することであり、機器を稼働させる電源としてコイン形電池を活用する

近年ではガソリンを使用しない電気自動車のニーズが高まっていることから、内部に搭載される機器もすべて電動化をしなければなりません。その際に適用できる電池としてコイン形電池の需要が高まりつつあるため、増産計画が立ちあがりました。

電気自動車の弱点克服

電気自動車は電気の力を利用して走行できる一方で、気温の変化によって消費電力が左右されます。また、エンジンをかけていない状態でも放電が続き、氷点下を迎える地方では電気自動車の走行が難しいと考えられていました。

対してマクセル株式会社のコイン形電池は、マイナス40℃~プラス125℃に対応できることから、気温に伴う消費電力の差を埋めやすくなるのがメリットです。

カーボンニュートラルの実現に向けて需要変化

日本そして世界で推進されているカーボンニュートラルの実現に向けて、世界中の国々がCO2排出量の多いガソリン車から次世代自動車へと移行し始めています。

そういったなかで必要になるのが電力であり、少ない電力で長距離を移動できる電気自動車を製造しなければなりません。このとき、マクセル株式会社が製造しているコイン形電池は、省電力そして蓄電に対応しているのが特徴です。

自動車需要が電気を利用した次世代自動車に移行していることを受け、コイン形電池の需要が高まることを予想し、増産が計画されました。

次世代自動車の最新動向について興味をお持ちの方は、以下の記事をチェックしてみてください。複数ある次世代自動車のニーズをランキング形式で紹介しています。

次世代自動車の人気ランキングを発表!消費者ニーズの変化や環境省の取り組みとは?

コイン形電池を含む蓄電池の最新技術

今回紹介したコイン形電池の増産など、近年では新たな技術や製品製造のニーズに合わせて面白い蓄電池の製造が始まっています。その中でも今までには考えられなかった魅力的な蓄電池の事例を整理しました。

曲げても使える超薄型のセラミックス二次電池

独自のセラミック技術でカーボンニュートラルとデジタル社会に貢献する日本ガイシ株式会社は、曲げ耐性に優れた曲げても問題なく利用できる超薄型のセラミックス二次電池(蓄電池)を開発しています。

電池内に搭載された結晶配向セラミックス板により、従来のリチウムイオン電池よりも高速で電子イオンを移動することで、高速充電・出力に対応できるようになりました。

また製品の薄さは0.45mmであり、蓄電池のなかでも省スペースで利用できるのが特徴です。
小型の形状を活かし、ウェアラブル機器などIoTデバイスへの導入が期待されています。

すべての材料が固体で構成された全固体電池

各種自動車メーカーや電機メーカーが開発を進めているのが、すべて固体の材料で構成する全固体電池です。

従来、電池内に搭載されている電流を発生させる電解質は、液性の素材でなければなりませんでした。なぜなら当時、固体の電解質では高性能な電流を発生させられないと考えていたからです。

しかし、従来の液性の素材は温度変化に弱く、寒冷地・温帯地ではバッテリー消費量が増えてしまうという問題を抱えていました。ただし度重なる研究の結果、固体の素材でも蓄電池を製造することが判明しました。

その結果生まれたのが、全固体電池です。
温度変化に強いことはもちろん、液性の素材の問題である液漏れの心配がありません。
折り曲げ加工にも対応でき、品質や製造の自由度が向上する電池として注目されています。

全固体電池の実用化に向けた取り組みを知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。EV競争力を高める魅力的な取り組みや、従来電池との違いを解説しています。

日産が全固体電池の実用化を進行中!EV競争力を高める新たな取り組みとは?

コイン形電池についてまとめ

タイヤ内の空気圧を測定できる監視システムへの対応として、マクセル株式会社が増産しているコイン形電池を増産しています。また、監視システムの需要増加だけでなく、自動車産業のトレンドが電動化に進んでいることもコイン形電池増産の理由です。

コイン形電池を含め、電池関連の技術はIoTやDXにかかわる分野で役立つため、今後さらにコンパクト化、高性能化といった進化を遂げていくと予想されます。

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