デジタル加工機械を使ってものづくりを行うデジタルファブリケーションに注目が集まっていますが、その主役となるのは、やはり3DプリンターやCNC切削加工機といった工作機械です。その中で3Dプリンターは、価格が一気に下がったことでデジタルファブリケーション業界で話題になりましたが、本物と同じ材料を使ってサンプルを作ることは難しいなど、決して万能の工作機械ではありません。一方、切削加工機なら、アルミや木材など、実物と同じ材料を使って形を削り出すことができるので、より実物に近いイメージのサンプルを作れますが、従来の切削加工機は、使いこなすのに慣れが必要でした。そのような中にあって、この度、株式会社岩間工業所が開発した、世界で初めてFusion 360を搭載する3軸切削加工機「MM650neo」は、その使いやすさで高い評価を得ています。そこで今回は、同社のセールスマネージャーの弘田舞氏に、MM650neoと、そこでFusion 360が果たしている役割について詳しい話をお聞きしました。
社長のアイデアでFusion 360を切削加工機に搭載
-まず岩間工業所さまの事業概要を教えて下さい。
弘田:大手の工作機械メーカーが作る、金型を削るような大型マシニングセンターではなく、小型のマシニングセンターを製造する工作機械のメーカーです。学校やデザイン会社、大手メーカーのデザイン部門のような、早く形にして検証したい、あるいは本物と同じ材料を削ってサンプルや試作型作りたいというニーズをお持ちの方がターゲットです。また私の業務として、お客さまからいただくFusion 360に関するご質問に回答したりしています。
-貴社では、Fusion 360を搭載した3軸切削加工機「MM650neo」を発表しましたが、こうした加工機にFusion 360が搭載されるというのは、画期的ですよね。
弘田:はい。Fusion 360の販売元であるオートデスク社によると、世界初だろうということです。
-どうしてFusion 360を切削加工機に搭載することにしたのでしょうか?
弘田: K650というMM650neoの前身の機械ではタブレットをオリジナル開発した制御画面の表示に使っていたのですが、タブレットだと画面が小さく、表示できるのは制御画面だけでした。そこで、機械につけるディスプレイを大きなタッチパネルにして、画面の下半分ではFusion 360を利用できるようにしたらもっと便利になるのではないかと弊社の社長が思いついたのです。それで実際に入れてみたら、Fusion 360はクラウドベースで動作が軽く、とても便利だということがわかりました。例えば、加工指示書をネットワーク経由で送って、加工機で見ることも容易にできます、
Fusion 360を搭載した3軸切削加工機「MM650neo」
Fusion 360搭載によって作業効率と使い勝手の向上を実現
-MM650neoに入っているFusion 360で、最初からモデリングをやろうと思えばできるのでしょうか。
弘田:頑張ればできるものもありますが、あまりそういう使用方法は想定していません。それよりもFusion 360を搭載しているメリットは、作業プロセスで一貫性を保てることです。CAMソフトを使う場合は、他の3Dソフトでモデリングをして、そのデータをCAMソフトに読み込ませてから、切削機に流すことになります。ですから、モデルのサイズが少し大きくて切削機で加工できない場合や寸法間違いをしていることに気付いた際に、CAMソフト側で修正することもあるのですが、そのような時、元の3Dデータは変更されません。データがばらばらに存在しているので、そうなってしまうのです。しかしFusion 360なら、工程が1本のラインでつながっているので、ある場所で作ったデータを別の機械に入れて変更したとしても、一貫性を保てます。
-他にもFusion 360を搭載したメリットはどのような点でしょう?
弘田:現場で、タッチパネルでツールパスを見たり、ワークサイズや設定された刃物を確認できたりするので、関係部署が離れた場所にあるような場合あちこち回って確認する手間が省けるのはとても便利だと思います。この機械を使われる方は、機械の設置場所と普段仕事をしているフロアが違うなど、遠く離れた場所に機械があることが少なくないと思います。MM650neoは、LINEやSlackのようなコミュニケーションツールを活用したIoT対応機ですので、作業を効率化できます。例えば作業中にデータの間違いに気づいた場合、「◯◯のデータが間違っていますよ」とSlackに送ると、AさんがFusion 360でデータを修正して、次にBさんがそのデータを受け取って対応するなど、機械をみんなで活用することで、作業がよりスムーズに進むと思います。便利機能はFusion 360だけではなく、IoTが絡むことでより活用できるシステムになっています。
-3Dプリンターに比べると、切削加工機は使うのが難しい印象を受けます。MM650neoは、Fusion 360を搭載したことで、よりユーザーに優しい切削加工機になったのでしょうか。
弘田:3Dプリンターは、ボタンを押せば3Dが出せる機械で、それはそれで可能性は広がったと思いますが、やはり本物の材料を使うとか、意匠面をきれいに削り出して検証するということはまだ難しいと思います。そのように、3Dプリンターと工作機械の間で、得意分野の切り分けがある中で、もっと簡単に使ってもらえる工作機械を作ろうということでできたのが、この機械です。
-基本的には工作機械は、誰かがそばについて操作するものだと思いますが、この機械なら、離れていても加工状況を逐次確認できますね。
弘田:はい。先ほどお話したコミュニケーションツールのSlackを利用することで加工の進捗の確認、作業中の写真が送られてきますし、加工が終わったら知らせてくれます。
タッチパネルを触ることで操作ができる。下の白い画面はFusion 360の加工指示書画面
-MM650neoは、主にどのような使われ方をするとお考えでしょうか?
弘田:樹脂加工の試作、小ロットの生産などが多いと思います。あとは、大手のメーカーであれば、開発中の試作品を削ったり、アルミ型を作ったりというケースもあるでしょう。過去にはギターを削ったお客さまもいらっしゃいます。少々特殊な例かもしれませんが(笑)。
-MM650neoの反響はいかがですか?
弘田:発表したのが今年(2018年)6月でまだ開発中ですが、反響はかなり大きく、注文もたくさんいただいております。やはり、Fusion 360が入っているところが現場目線ですごくいいとおっしゃられる方が多いです。
工作機械の設計にもFusion 360を活用
-弘田さまがFusion 360でよく使う機能、おすすめの機能は何でしょうか?
弘田:基本的には3DモデリングとCAMを使っています。CAMにはシミュレーション機能があり、シミュレーション結果と削った形状がほぼ同じになるので「ここに削り残りが出るから、1つ小さい工具を入れよう」とか「あともう1層削らないとだめだな」などということがわかります。CAMのシミュレーション機能によって、切削のやり直しの回数が減るわけです。
-御社の工作機械の設計にもFusion 360が使われているのですか?
弘田:設計チームも一部利用しています。弊社は台湾とタイに子会社がありますが、クラウドベースでどこでも使えるFusion 360は出張が多いメンバーには大きな存在です。ちなみに、弊社のMM650neoのカタログもFusion 360でレンダリングしたものを使っています。
Fusion 360とMM650neoを使って削り出した作例
誰もが使える工作機械で、CAMの世界を広げていきたい
-今後の貴社では、Fusion 360を活用しながら、どのような方向を目指されるのでしょうか。
弘田:弊社の社長はいつも、「工作機械を職人だけの世界から解放したい、誰もが気軽に使える工作機械を実現したい」と言っています。それにはCAMという1つの壁があります。3Dデータは作れても、CAMデータを作るのは慣れていないと難しいので、半自動化システムの提供を行いながら、さらにもっと大きな新しい仕組みを大学と共同で研究しています。あと個人的な話ではありますが、今は3軸しかできないので、5軸を使えるように、もっとCAMを勉強したいと思っています。Fusion 360ユーザーのうち、CAMを使っている方は、まだまだ少ないようですので、さらにCAM機能の便利さを広めていきたいと考えています。Fusion 360は3D CADとしても優秀ですが、CAMが使えるから、よりすごいのだということを伝えていきたいと思っています。
Fusion 360のCAM機能でパスを作成
樹脂を削り出して革とステッチのテクスチャを実現