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教育現場で伝えるデジタルファブリケーションの楽しさ (宮城教育大学 門田和雄氏)

デジタル加工機械を使ってものづくりをするデジタルファブリケーション。
このムーブメントを支えるのが「ファブラボ」に代表される、ものづくりを行う人々のために各種の加工機械などをそろえたデジタルファブリケーションスペースです。
そして、このスペースは、さまざまなワークショップなどを通じて、ものづくりの楽しさを多くの人に伝える場でもあります。

そこで今回は、ファブラボ関内の創立メンバーで宮城教育大学の准教授でもある門田和雄氏に、日本の教育現場ではデジタルファブリケーションの魅力はどのように伝えられているのか、お聞きしました。

Make: Tokyo Meetingで3Dプリンターを見て衝撃を受ける

まず門田様の経歴と、デジタルファブリケーションに関わるようになったきっかけを教えてください。
4年前まで、工業高校の機械科で機械系のものづくりを教えていました。
2011年に、東工大で開催されていたMake: Tokyo Meetingで初めて3Dプリンターを見て衝撃を受けたのですが、さらにちょうどその頃、ファブラボの発足式に立ち会う機会があったのです。
そして「これは面白い!」と思い、その後さまざまなご縁もあってファブラボ関内を立ち上げることになりました。
今は宮城教育大で教鞭をとられていますが、どのような授業をされているのでしょうか。
教育大学なので、国語、算数、理科、社会など各教科の教員免許を取るコースがありますが、私は中学校の技術科教員を養成するコースに所属しています。
また、小学校の情報ものづくりコースに属する学生の面倒も見ていて、他にも小学校生活科の工作関係の授業や高校工業免許の授業、また高校の「工業科」に関する授業も担当しています。
門田様は、関内や仙台だけでなく、海外のファブラボ関係のイベントに参加され、多方面で活躍されています。
そこで、ファブラボ関係の取り組みについて教えてください。
ファブラボは別に堅苦しい集まりではありません。
日本のファブラボは、2018年9月の段階で16カ所ほどありますが、そこに「ファブラボジャパンネットワーク」という緩い繋がりがあり、日々やりとりをしています。
私は工業高校の教員だったので、国際交流の経験はほとんどなかったのですが、2012年にニュージーランドで開催されたファブラボの国際会議に参加したことで海外との繋がりができました。

そして、日本でも翌年に横浜で国際会議を開催することになり、それをきっかけに、今は横浜コミュニティデザインラボというNPOの一つの部署として、ファブラボ関内を運営させてもらっています。

学校でのデジファブ導入が遅れている日本

日本と海外では、もともとのDIY文化の浸透具合が違いそうですが、デジファブについてはいかがでしょうか。
ファブラボの国際会議には5回くらい参加して、いろいろな国に行きました。
そこでわかったのが「日本は進んでいる方だと思っていたが、全然違う」ということです。
たとえば、学校の教育現場ひとつを取っても、デジファブの導入は遅れています。私は普通の公立学校にデジファブを広めたいと思って活動していますが、今の学校教育の仕組みだと難しいですね。
あまり、学校外の人が教育に口を出すのを良しとしないのが一般的な風潮ですが、もう、そうも言ってられない状況だと思います。

台湾、香港、マカオなど、他のアジアの国々では、学校外の人も普通に土曜日に学校に来て授業をやるなどといった連携ができています。
また、工業高校と中学校、小学校の先生の連携もしっかりとれています。
国も積極的にお金を出していて、先生方の研修や勉強の体制も整っています。
台湾は今、学校のデジファブ関連予算として年に約6億円出していますからね。

日本では、プログラミング教育に関しては話題になっていますが、デジファブに関してはまだまだです。
2年後から始まる新しい学習指導要領で、中学校技術科に3Dプリンターと3D CADという文言は入りましたが、海外に比べてかなり遅れていることは否めないですね。

3Dプリンターは一時期ブームとなりましたが、最近は落ち着きました。
ただ、その裏で着実に3Dプリンターの技術は進化していますよね。
はい、個人向け3Dプリンターは大分安くなりました。
最近なら、もう3、4万円で買えます。
しかしそのくらいの価格になってもまだ爆発的に広まらないということは、やはり使いたい人にはすでに行き渡っていて、規模的にはこのくらいなのではないでしょうか。
とは言え、最近では光造形方式の3Dプリンターがかなり安くなってきたので、その流れには注目しています。
ファブラボでは、3Dプリンターとレーザーカッターが置かれていることが多いと思いますが、どちらがよく使われているのでしょうか。
圧倒的にレーザーカッターを使う人が多いですね。
やはり、3Dプリンターは3Dデータを作るのが難しいので。

ものづくりに不可欠な安全性もFusion 360で教えていきたい

門田様は、Fusion 360を使われていますよね。
学生にもFusion 360の使い方を教えているのでしょうか。
はい、私の大学では、今年から学生がパソコン必携になり、文系、理系問わず、入学時に全員パソコンを購入することになりました。
それを機会に、授業でもFusion 360を使うことにしたのです。
ほとんどの学生が3D CADに触れるのは初めてですが、90分の授業を2回やれば、大体の基本操作は覚えますね。あとは入門書を置いておけば、インターネットで情報を収集しながら、かなりのことは自分でやれるようになります。
単品の1つのパーツのモデリングなら、1、2カ月で覚えますね。
Fusion 360を選ばれた理由は何でしょうか。
以前の勤務先である工業高校で使っていたソフトから乗り換えようと思っていたときに、ちょうどFusion 360が出たので使い始めました。
当時はまだ英語版しかありませんでしたが、それまで使っていたソフトでやっていたことがFusion 360でも全部できるか試したところ問題なかったので、乗り換えを決めました。
機能的には満足しています。

ただ、3D CADでのモデリングは比較的ハードルが低く、また現実的なものづくりをしないのであれば誰でも好きに取り組んでいいと思うのですが、実際に人間が使うものを作るとなると安全面での品質は大切です。
ものづくりには必ず必要になる材質の強度などのような基礎知識がない人が多いことが気になります。
そこで今、いろいろな材料強度のシミュレーションなども行い、インターネット上に公開しています。

やはりシミュレーションを行うには、専門的な知識や経験が必要ですよね。
形を作るだけなら美術系の人でもできますが、物体は力を加えたら変形するし、それがある程度まで行ったら壊れます。
そういう基礎的なことをあまり知らないんですね。
-Fusion 360でよく使われる機能は何ですか?
私はそんなに難しいことをやらないので、基本的な形が中心です。
平面を出して盛り上げたり、押し出してカットなどを組み合わせてモデリングしています。
アセンブリ関係だとリンクのシミュレーションや歯車とか。
研究室でも、卒論でmicro:bitを使ったラジコンカーを作っている学生がいますが、ボディなどの筐体はFusion 360で設計して、3Dプリンターやレーザーカッターといったデジファブ機器を使って製作しています。

教育現場で伝えるデジタルファブリケーションの楽しさFusion 360を使って設計されたmicro:bit搭載ラジコンカー

教育現場で伝えるデジタルファブリケーションの楽しさFusion 360で設計されたmicro:bit搭載ラジコンカーの軸受け部分

教育現場で伝えるデジタルファブリケーションの楽しさ黒いパーツが3Dプリンターで出力された軸受け部分

教育現場で伝えるデジタルファブリケーションの楽しさmicro:bitを活用した送信機

教育現場で伝えるデジタルファブリケーションの楽しさ送信機のフレームもFusion 360を使って設計されている

門田様は、これからFusion 360をどのように活用していこうとお考えですか?
まず、学生にFusion 360の基本操作を教えて、デジファブ機器を使いこなせるようにしたいですね。
そうすれば学生たちが将来教師になったとき、中学や高校で生徒にデジタルでのものづくりを教えることができるようになります。
さらに、リンク機構や歯車の機構解析や強度解析などの、より高度な機能の活用にも取り組んでいきたいと思っています。
最後に、デジタルファブリケーションによって、どのような社会を実現したいと思われますか?
私自身、デジタルファブリケーションは、ただ楽しいからやってきたことなので、「ファブラボはすごいでしょう!」とか、「デジファブをやらなきゃ駄目だよ」というつもりは、実はありません。
3Dプリンターもその他のデジファブも、単なるツールです。
そういったものが、身近になってきたから、使ってみると楽しいよというのが私のスタンスです。
ですから、学校へのデジファブ機器の導入も進めたいとは思っていますが、絶対にこれは学校に入れなきゃいけないとか、自分の意見を人に押し付けるつもりはありません。

ただ、ものづくりの楽しさは、多くの人たちに知ってもらいたいと思うし、教育の現場でも伝えていきたいと考えています。
2020年から小学校でプログラミング教育が始まります。
それはそれでいいと思いますが、実際に自分の手で、実体のあるモノを作る楽しさというのも子供たちに実感してほしいですね。
デジファブなどを活用することで、もっとものづくりに関心を持ってもらえる社会にできたらと思います。

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