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ケイズデザインラボ 原雄司氏と慶應大学 田中浩也教授が語る「デジタルファブリケーションのこれまでとこれから」

*本記事は、2017年5月公開の記事です。

ケイズデザインラボ代表取締役の原雄司氏と、慶應義塾大学SFC研究所ソーシャルファブリケーションラボ代表の田中浩也教授は、ともにデジタルファブリケーションの実践において日本有数の実績を誇る方々です。

今回はこのお二人に、デジタルファブリケーションのこれまでの歩みと、今後についてお伺いしました。

3Dの製造技術は様々な分野で活躍する

ー:まず、ケイズデザインラボを設立した経緯を教えてください。

原:最初の就職先として通信機メーカーの試作現場を経験し、その後、CAD/CAM会社でソフトウェア開発に携わっていました。ケイズデザインラボを立ち上げたのは2006年ですが、それまでの開発の経験から、複数の3Dデジタルツールを組み合わせたプロセス提案も含めてソリューションとして販売をはじめました。当初は製造業を対象とした技術としてスタートしたのですが、実際やってみると、企業はもちろん、映画やCMなど、分野が違う仕事からの需要や反応も多くて面白いなと思いました。その経験で3Dの製造技術がエンターテイメントにも使えることを感じ、基軸を3Dに特化した研究は、さらにいろんな市場に使えるのではないかと思いました。

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ケイズデザインラボ代表取締役の原雄司氏

ー:田中先生は、日本のFabLabの父とも呼べる存在ですが、田中先生とデジタルファブリケーションとの出会いについて教えて下さい。

田中:大学の教員をやっていると、多くの新世代と接触する機会があります。そこでは、木を切ったことがないとか、ものを作ったことがないという学生がとても多いのです。けれど、小さい頃からデジタル環境には触れている。それならデジタル世代なりの、新しいものづくりの方法があるんじゃないかなというのが興味の発端で、大学という場でデジタルファブリケーションの環境を作っています。

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慶應義塾大学環境情報学部教授の田中浩也先生

コンソーシアムは「企業と手をとりあって社会を作っていくこと」が目的

ー:田中先生が中心となってファブ地球社会コンソーシアムを立ち上げられていますが、そのコンソーシアムの立ち上げの経緯や目的について教えて下さい。

田中:やはり、FabLabのおかげで、市民の人達のものづくりは盛り上がっています。主婦や子供、定年退職をしたご老人が、平日の昼閒に、FabLabで3Dプリンターを使ってものづくりをしています。その反面、産業側はどうするのか、という課題が出てきました。企業からも、何をしたらいいのか模索している、という声がたくさん聞こえてきたのです。そこで、FabLabが市民側だとすると、企業の皆さんはこちら側で、手をつないで一緒に社会を作っていこう、という思いでコンソーシアムを立ち上げました。

ー:ファブ地球社会コンソーシアムはいくつかのワーキンググループに分かれて標準化を行っていたり、アカデミックなところが他の3Dものづくりの組織とは一線を画していると思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?

原:企業サイドからすると、我々もいろんな企業としての顔があります。例えば、3Dプリンターや3Dスキャナーのディストリビューターであったり、メーカーであったりと様々です。企業同士で集まると必然的に利害関係が生じてしまうのですが、主幹幹事として中心に大学がいてくれると、企業としては非常にありがたいのです。競合としての事情はさておき、お互い本音できちんとプロジェクトについて話し合え、コンソーシアムとしての活動もシェアできます。

田中:FabLabは、地方創生の有力なツールだということで、地方にFabLabを作る施策が出ました。ですが、民間の人たちはどういう風にやっていけばいいのかという話が残されていて、私学である大学を中心に、産学連携の枠組みでやれることをやろうとなったのです。

Fab施設の活性化を促す活動を全国へ

ー:コンソーシアムができて2年経ちましたが、その成果はいかがでしょうか。また、今後はどのような活動をしていくのでしょうか?

田中:コンソーシアムの取り組みは、今は大きく4つに整理されてきています。1つ目は、しっかりした安全基準を作ったり、標準化をするという取り組みです。2つ目は、企業と個人で新しい関係性を模索する取り組みです。例えば、オリンパスさんのカメラ「Hack&Make Project」みたいに、レンズだけを販売するので、筐体は自分で自由に作って下さい、というような個人の創造性をどう活かせるか、ということが課題になってきます。3つ目は、日本のFab施設の活性化を促す取り組みです。取り組みの一環として、昨年「ファブ3Dコンテスト」を行いました。僕はすごくこのコンテストを推していて、これから全国に広げていきたいと考えています。4つ目は、3Dプリンターブームの次に出てきた、IoTやAIなどの技術を、3Dとくっつける研究をすることです。フィンテックとかブロックチェーン技術も使えるかもしれません。そういう社会インフラを作っていくことをリードしていきたいと思っています。

ー:3Dものづくりの現場と課題点みたいなのをそれぞれお聞かせいただけないでしょうか。

田中:課題点は、国産メーカーにももっと頑張って欲しい、というところです。実は、材料に関しては日本が強いのです。今、医療向けの3Dプリンターを作っているのですが、病院で患者さんに触れる材料、例えばギプスに使う材料って、生体適合性とかの認可を通っていないといけないのです。けれど、そういった材料がまだなかったので、日本の材料メーカーさんに頼んで作ってもらったりもしていました。

原:それと、今はセミプロレベルの用途に応える中間の3Dプリンターがあまりないのです。業務で使用するような超産業用ではハードルが高く、安価の超個人用では役不足。例えば90年代とかだと、CGの仕事をやろうと思ったら、セミプロレベルの50、60万円のマシンを買って開発したものですが、そのあたりのいい3Dプリンターが今はないね、と話していました。それが最近、日本の3Dプリンターメーカー「S lab(エスラボ)」や「L-DEVO(エルディーボ)」なんかが出てきて、期待しています。もっと種類が増えてくれたらいいなと思います。

3Dプリンターはコミュニケーションツールになる

ー:原さんは、ケイズデザインラボで、3Dツールや3Dプリンターなどを販売してきたわけですが、そのあたりの苦労話はありますか?

原:僕は前職で二次元図面でプロダクトの企画をうまく説明できず、上司を説得できないということがありました。それで、3D CADを見たときに衝撃を受けたのです。可視化して共有できる、これなら僕でも説明できると。その延長線上で3Dプリンターに出会ったときに、再び衝撃を受けました。それまでは新しいプロダクトの試作のためには上司に説明をして稟議を通すことが必要だったのに、CADで設計をして内製で3Dプリントすることで、実際にモックアップを見せてプレゼンができる。それから僕は、3Dプリンターは複数人で具体的なイメージを共有するコミュニケーションツールだと考えるようになりました。その後、2013年頃からの3Dプリンターブームでは、メディアの過度なイメージ報道もあり、結局、期待ばかりが先行して、3Dプリンターを買ったけど結局使えない、という感じで沈静化したことは残念ですね。表に出ずともハードやソフト、素材研究は実際に進んでいますし、そういったブームが何度かやってきて、一般化していくのだとは思いますが。

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ケイズデザインラボが開発した「D3 テクスチャー®」。3Dデータに直接凹凸を表現することが可能で、プラスチック樹脂でさまざまなテクスチャーを実現できる

3Dの普及にとって、Fusion 360の存在は大きい

ー:田中先生の大学での取り組みや学生への指導方針などを教えて下さい。

田中:慶應大学SFCでは、大学の図書館に3Dプリンターが15台あり無料で使えます。かつ、必修に近付けていて、3Dプリンターを使ったことがない人は、ほぼいない状態に向かいつつあります。つまり学生には3Dプリンターがもう当たり前で、自然な日常の光景になっているのです。そういうことを大学としてはチャレンジしています。やはり学生は、いつでも無料で使える3Dプリンターが図書館にあると、それを前提とした生活をするのです。忘れ物をしたのでなにか作りますとか、それができなくなったらショックを受けて、そこでまた思考して何をしようとするのか、そういう実験なんですけどね。

ー:それは素晴らしいですね。3D CADは何を使っているんですか?

田中:3D CADは、学生が無料で使えるFusion 360が主流です。学生が1人1台パソコンを持って大学に来るというのは昔からの伝統です。それで、みんな勝手にサークルのグッズなどを作っています。僕も授業はやっていて、品質評価や安全基準、ちゃんと寸法を出す方法や、図面を書くなどの基礎的な授業もあります。

原:3D化すると理解が早いのです。先ほども可視化してプレゼンする例を出しましたが、ロジカルで考える人と、感覚で考える人の間には谷間がありますが、そこをつなぐのが3Dだと僕は思っています。Fusion 360は、無料から自由に使えることが魅力ですね。3Dはわかりやすくて、モチベーションを上げることに役立ちますが、昔の3D CADみたいに、数百万円もするものだったら、家庭や学校で使えないですよね。でも、ほぼ無料で使えるFusion 360は、ダウンロードして試すことができると思います。3Dプリンターも含めて普及するキーとしては、そういう3D CADが出てきたのはすごく大きいと思いますね。

3Dの周りにこんなエコシステムが生まれてほしい

ー:これから3Dデータを使った新たなビジネスを検討している企業へのアドバイスはありますか?

原:皆さん3Dプリンターに興味をもたれるのですが、僕は3Dスキャナーもすごく好きです。扱っているEin Scan-S(インスキャンエス)は18万円ほどの3Dスキャナーですが、非常に高性能です。こうなってくると、3Dのデータのつくり方も変わってきます。スキャンしたものをちょっと修正するツールも、Fusion 360も含めて無料から使えるものが出てきているというのは大きな進化です。うちのお客さんで、個人の足型をスキャンして木型を作るサービスをはじめたところがありますが、これらは別に3Dが専門の人たちではありません。異業種からもビジネスアイデアを実践する人が出てきたということです。皆さんも、いろいろなことにチャレンジしていくことが一番なのではないでしょうか。

田中:僕は、インターネット上に公開されている、3Dプリンター用のSTLデータをかき集めて、世界中の3Dデータを全部データベースに入れ、そのビッグデータを使って学習させることで、AIに3Dデータを作らせる研究「Fab3D.cc」をしています。3Dプリンターで何かものを作るという人だけではなくて、3Dプリンター本体を作る人とか、もっとメタなインターネットのサービスを作る人とか、3Dの周りにいろんなエコシステムが生まれてほしいですね。材料会社も関係あるだろうし、スキャナーの会社、ソフト会社、人材育成、教育などいろいろありますが、そういう広い見方をしてもらいたいなと思います。

47_追加.jpg2016年度田中ワーキンググループ活動報告 ポスター「ECOSYSTEM OF 3D BUSINESS」

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ケイズデザインラボが開発した高性能切削RPマシン「3D Mill K-400/K-650」。IoT対応で外部から加工の様子をモニタリングできる

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