3Dプリンターの登場によって、モデリングアプリを使って造形したオブジェクトを、ほとんどヒトの手を介さずに、リアルなモノとして出力できるようになりました。そんな3Dプリンターの力をもってしても、ひとりでに組み上がる部品や、環境に合わせて形を変化させるモノを作ることはできません。
しかし、現在、あたかも生物のように自己組織化・自己変形するモノをモデリングする研究が進んでいます。それこそが4Dプリンティングの研究開発。今回は、最も注目すべき最先端テクノロジーのひとつである、4Dプリンティングをご紹介していきます。
拡散した3Dプリンティング、到来する4Dプリンティング
アメリカ・大手調査会社のガートナーは、毎年テクノロジーの未来を占うハイプサイクルを発表しています。
2016年版ハイプサイクルでは、2015年には「啓蒙活動期」と評価されていた「企業向け3Dプリンティング」が評価対象から消え、代わって「4Dプリンティング」が「黎明期」のテクノロジーとして登場しました。こうした変化の理由としては、3Dプリンティングは十分に普及したので、もはや「最先端」テクノロジーではないと評価されたことが考えられます。
進化の鍵は「プログラマブルな」素材
引用元 https://www.ted.com/talks/skylar_tibbits_the_emergence_of_4d_printing?language=ja
「4Dプリンティングとは何か」を知るには、この研究の第一人者であるスカイラー・ティビッツ氏が行ったTEDでのプレゼン動画を見るのがよいでしょう。ティビッツ氏によると、4Dプリンティングが実現しようしているのは、時間の経過とともにひとりでに組み上がる部品、あるいは環境との相互作用によって形状が変化するオブジェクトの造形とのことです。こうした3次元の空間的座標軸に加えて、4つめの次元として時間軸をも考慮していることが「4D」という名前の由来なのです。
4Dプリンティングを実現するうえで鍵となるのが、オブジェクトを造形する時に使う素材です。素材には、時間の経過や環境との相互作用によって形状が変化する性質を持つように設計されたモノが用いられます。こうした素材は、言わば性質が制御=プログラミングされていることから「プログラマブルな」素材と表現されます。
4Dプリンティングが切り拓く、新しい世界
引用元 https://www.ted.com/talks/skylar_tibbits_the_emergence_of_4d_printing?language=ja
4Dプリンティングの実用例として、ティビッツはヒトの食道のように収縮と弛緩をすることによって、流水量を自己調節できる水道管を挙げています。この水道管は、流水量が少ない時は細くなり、反対に多い時は太くなるのです。
想像の羽根を広げれば、4Dプリンティングの応用例はたくさん出てくるでしょう。光が当たるとひとりでに組み上がる家具、歩いている状況に応じてサイズを調整する靴などはごく近い将来にも実現可能なように思われます。
ただ、4Dプリンティングが真にイノベーティブなのは、革新的な応用事例を産み出すからではなく、「プログラマブルな素材」が活躍する世界を切り拓こうとしているからです。この生物的に動く素材の世界が大きな可能性に満ちていることこそが、4Dプリンティングがハイプサイクルに登場した大きな理由なのです。