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「一般社団法人3Dデータを活用する会・3D-GAN」の相馬達也理事長が語る「3Dデータのこれまでとこれから」(後編)

一般社団法人「3Dデータを活用する会・3D-GAN」(以下、3D-GAN)は、業種を問わず「3Dデータを活用すること」を共通項として会員が集まり、活動している非営利の業界団体です。今回は3D-GANの設立者であり、理事長を務める相馬達也氏に、3D-GANの目的や3Dデータ活用の過去と未来についてお訊きしました。前編では、3D-GANの設立経緯や目的、活動について語っていただきましたが、後編では、3Dデータの使われ方の変化や今後3D-GANで取り組んでいきたいことについてお話をしていただきます。

3Dデータは解析部門や製造部門で使われ始めた

-:3Dデータの使われ方というのは、昔と今では変わってきたのでしょうか?

相馬:まず、多くの人は3Dデータの活用って設計部門のCADから始まったと思っています。それは誤解なんです。3Dデータを最初に活用したのは、金型と解析の部門です。例えば車のドアミラーがありますよね。3D CADが使われる前は、木型を手で作っていました。それに倣い加工機という機械で、その木型の表面をなぞっていくんですね。反対側に回転するドリルをくっつけて、木型をなぞっていくと同じもの、またはポジネガ反転した形が彫れるんです。これで量産用の金型を作っていたんですね。1980年代までは盛んにやっていました。

元になっていたのは、設計図と木型です。これを使って金型を作っていた。では、木型なしでできないかと。このなぞって動くところっていうのは、結局XYZの3次元座標です。だから、たくさんの座標をとって線で繋げていけば、なぞったことになるわけです。これに気付いた人たちが、『コンピューターの中に木型を作ればいいんだ』と。3次元座標の集合ですよね。つまり、3Dデータの誕生です。これが、製造業に3Dデータが使われるようになった道のりです。

それから、解析ですね。例えば、この板のこちら側を固定します。反対側から何キログラムの圧力をどれくらいの面積に対してかけると、力がどこに集中してどう変形しますか?というのが、Fusion 360でもできる応力解析ですが、これは3Dモデリングしないとできないんです。過去には簡易的に厚みのない形状で解析する期間が長かったのですが、コンピューターが高速安価になったことで、簡易モデルではなく製品形状そのもので計算できるようになりました。解析モデルとしての3Dデータの誕生です。 つまり設計の知らない所で、製造と解析の人たちはそれ用の3Dモデリングをしていた訳です。

1990年代に入って、『各々が別に解析用、製造用という3Dデータを作るのではなく、そもそも形を決める設計を最初に3Dデータでやればいいんだ』と、気づいた人がいたんですね。設計を製図ではなく最初から3Dデータにすれば、設計途中でも解析や金型に早めに渡してやれると。そうすると並行して作業が進められ、途中で問題が起きたらすぐフィードバックできるので、設計から量産までの期間が全体として短縮できます。これは、コンカレントエンジニアリングという考え方ですが、3Dデータはそれを実現するためのメディア(媒体)だというのがその正体です。

-:なるほど、3Dデータが各部門の共通言語になったわけですね。その他の用途にも3Dデータは活用されているのでしょうか?

相馬:3Dデータの活用の範囲が今後どうなるかということでは、製造業に限って言えば、これ以上はあまり広まらないかも知れません。もう十分使われているからです。やっている会社は十分にやっていて、やっていない会社は何らかの障壁があってできないか単に試みていないか、ということになるでしょう。現状かなり広範に使われています。例えば、家電では、デザインに使って、詳細設計に使って、解析に使って、製造に使うというのが主な活用方法です。中にはその生産の段階で、工場に組立方法を説明する、組立指示書というものがあります。

昔、家電メーカーのジョグダイヤル付きケータイがありました。随分昔です。そのメーカーのケータイでは最初に3次元設計を採用した製品なんですが、3次元設計で一番期間を短縮できた工程は、実は組立指示書作りだったんです。組立指示書作りは以前絵作りに3週間かかっていたのが、3次元設計を入れたら2日で終わるようになりました。今までは試作品のパーツが全部あがって、実際に組立ができる状態になってから、一工程ずつ写真を撮って指示書を作っていたのですが、3次元設計なら、3Dデータを組み合わせてスクリーンショットを撮っていけば済んでしまうわけです。しかも、最終試作品があがってくる前に、組立指示書はもう着手できているんですね。地味だけど、現場からしてみたらとても有効です。最近は、3D CADの3Dデータをもらって、Web用に使おうとか、広告用のグラフィックデータにしようとかも、やっていますね。  

こうやって3Dデータ活用の範囲が広がってきたわけですが、この3Dデータを使う業種が、家電や車だけじゃなくて、靴とか他の軽工業に広がることもあるでしょう。ただし、3Dデータを使う産業が増えたとしても、最初に面倒な3Dデータを作っておけば、その応用範囲は広いという構造はまったく変わらないと思います。モデリングが全ての始まりで、これがなければ活用もありません。なので、3Dモデリングする人が増えることが活用の範囲を広げることに繋がります。確実に。なにより「3Dデータがあればこれができる」というリテラシーが広まります。ここが最も重要です。

アニメ業界では3Dデータが共有財産になる

-:アニメやゲームなどのバーチャルな世界での3Dデータの活用についてはいかがでしょうか?

相馬:作品づくりと言うよりはその周辺のグッズやスマホのゲーム等の展開に関しては製造業と似た状況も考えられます。アニメでは一般的に製作委員会方式を採用しています。アニメ作品に色々な会社が参加する形で出資しているお金と権利がセットになっていて、ひとつの作品を作っています。そこにアニメ映像用の3Dデータも製作委員会全体の所有物になってないれば良いのかも知れませんが、今の仕組みでは、そのアニメに加わっている制作会社が3Dデータを持っているんです。

例えば、このアニメのキャラでグッズを作りたいとか、アプリを作りたいとか、印刷したいとか、作品以外にも目的がいっぱいありますよね。今は、支給された絵を使ったり、それぞれモデリングしたりして、印刷して、全部細かく監修を入れている状態です。そうではなく、3Dデータを製作委員会の共有財産にして、これを支給してベースにしてやってくださいといえば監修も楽になるのにそれをしていない。慣習や権利関係の色々な要因から3Dデータが共有物ではない、という状態なので仕方ないことではあります。実際にゼロではないのですが、もっと増えて良いと思います。  

アニメの制作会社にとって3Dデータは自分達の資産です。2期が決まったら、よし、この3Dデータがやっと使えると。逆にいうと、彼らは2期の約束がない状態でも、ずっと3Dデータを維持しています。容量も大きいですから維持も大変です。もし、そうではなく製作委員会が3Dデータを買い上げる代わりに、みんなに3Dデータを貸し出しますとなれば、このストーリーは成立するといえるでしょう。

ポケモンGoだって、あれは恐らくポケモンの他のゲームの3Dデータを利用していますよね。監修が終了していて、モーションまで入った3Dデータが版元さんにあるからです。だからアプリも作りやすいしグッズを作る際に基準にもできるでしょう。ただ、これがアニメの製作委員会では、3Dデータは残念ながらそういう評価を受けてないんですね。『3Dデータがあればこんなこともできるのに』って思っているのは、まだまだ3Dの専門家だけなのです。ただ、今後はアニメ業界でも、3Dデータのリテラシーが広まるようになれば、変わっていくと思います。

2017年、Fusion 360を使って幅広い趣味へ

-:今後、3D-GANで新たにやろうと思っていることはありますか?

相馬:いくつかありますが、一つは、コトブキヤさんってありますよね。コトブキヤさんも3D-GANの会員なのですが、コトブキヤさんのキャラクター版権で模型の武器などメカをオリジナルで3Dモデリングする講座を開きます。武器は形状の要素がシンプルなので、初心者にも向いています。ミニ四駆とは別の需要をこれで掘り起こせるかなと思います。こちらもFusion 360を使う予定です。

-:前編でお話しいただいた、大人向けのミニ四駆モデリング教室もそうですが、数ある3D CADの中からFusion 360を選ばれた理由は何でしょうか?

相馬:Fusion 360は、サーフェスモデリングとソリッドモデリングの両方の機能をバランスよく持っています。サーフェスのモデリングって面倒なのですが、Fusion 360のスカルプト機能はすごくよくできています。しかも、現状営利目的でなければ無料で使えますので。これは大きな要因です。

-:その他の今後の取り組みはいかがですか?

相馬:講座は増やします。もう一つは戦車ですね。人気のある戦車は完成品のラジコンとして売っていますが、マイナーな戦車のラジコンが欲しいというニーズもあるので、プラモデルの戦車を3Dモデリングと3Dプリンターを使ってラジコン化する講座、それをやろうと思っています。それと別に戦車関連では、少し前から熱心にやっていることがあります。それはミニ四駆シャーシにかぶせる戦車のボディです。

今は、ガールズ&パンツァー(以下ガルパン)のヒットで、なんと空前の戦車ブームです。ガルパンに出てくる戦車は、1945年8月15日までに設計が完了して試作されていた車輌なので、ほぼ版権をとる必要がないんですね。これほど人気のあるアニメのキャラクターメカに版権がないという奇跡のような状態です。それでまず、3Dモデリングが得意な3D-GANの会員さんが、CV33というイタリアの豆戦車のモデリングをしたんですよ。そしたら、それを見た山形の学生さんや新潟で設計やっている人もやりたいと入ってきて、今、5,6人のメンバーで、戦車ボディの3Dモデリングをやっています。半分は学生ですね。それで、その戦車の3DデータをCD-ROMに焼いてワンダーフェスティバルで販売したのですが好評で、これは「継続」して行きます。

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3D-GANの会員が3Dモデリングした戦車ボディ。モノを売るのではなく、3Dデータとして販売していることが特徴

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このように、個人向けの小型3Dプリンターでも、ミニ四駆用戦車ボディの出力が可能だ

34_3.jpg戦車のプラモデルを3Dプリンターを使いラジコン化する講座を準備中

さらに、ドールのための家具作りもやろうかと思っています。家具は大抵、平面の部品の組み立てなんですよね。だから3Dで設計しても、製造は平面の板を組み合わせるだけなので簡単に作ることができるんです。1枚の板からパーツを外して組み立てると、恐竜の骨になる製品がありますよね。それのドール用家具をやろうと思っています。ドールもサイズがいろいろあるので、その縮尺を設定すれば、ウチの子にぴったりなロッキングチェアが作れるとか、タンスが作れるという教室をやろうと思っています。レーザーカッターで作れるので、3Dプリンターより時間も短くて済むし、安いんです。ドール愛好家が求めているものはたくさんあって、愛好家のモチベーションも高い(沼が深い)ものがあります。

また、今年は聴覚に障害ある人へ3Dモデリングを楽しんでもらう講座も企画しています。これは、Adobeのツールを使って実際にお仕事をしている聴覚障害者が結構いらっしゃることを知りまして、衝撃を受けました。2Dはできているので3Dもできるはずだろう、ということです。とにかく3Dはこういったことも遅れている。実際、私自身もたくさん3Dモデリングを発注してきましたが、一度も会って話したことが無い人、メールだけのやり取りで済んでしまったモデリングのお仕事は結構多いのです。これについては、まず私達が「聞こえない」とはどういうことか、「聞こえない人が学ぶ」というのはどういうことか?そこから勉強してみるつもりです。少々時間がかかってもやるつもりです。

相馬さんには、3Dデータ活用の過去と未来を語っていただきました。製造業から生まれた3Dデータは、現在、誰もがモデリング体験ができるほど身近なものになっています。近い将来、どの業界でも、3Dデータを活用することが新たな発展のキーワードになってくるのかもしれません。

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